武内氏の「インフレターゲット政策に反対する」に対するコメント(再論)

東京都文京区 松井 孝司

武内氏から再度「インフレターゲット政策に反対する」見解が表明されました。

このテーマにこだわるのは「政権交代」が結実するまで現在の政権が存続することを望むためとしておられますが、私は現在の政権を存続させるためにインフレターゲットを伴う金融緩和が必要と思っています。

政権を存続させるためには円高を是正して産業の空洞化を阻止し、税率を上げることなく税収を増やす必要があり、経済規模の拡大策が不可欠と考えるからです。

尖閣問題などで国会を空転させることなく、今こそ円高デフレ対策に真剣に取り組むべきでしょう。

過去20年間、世界の先進国の中で日本だけが名目GDPを増やすことができず500兆円前後で低迷してきたことが問題で、特に2008年のリーマン・ショックを経験した後、日本の名目GDPは477兆円に激減しました。

衣料品、家電製品や不動産価格が下落する中で、公共料金、食料品やガソリン、電気料金など政府の規制を受ける物価に注目すれば上昇する場合が多く、消費者物価指数の変動はデフレ経済の実態を正しく反映しないことが多いのです。

デフレを実感しているのは売上の減少に苦しむ中小の民間業者です。「デフレは存在しない」という主張を素直に受け入れることのできるのは経済の実態を知らない学者か、または高額の現金支給が保障される公務員など既得権益を享受している人達です。

海外に脱出できない中小企業にとって円高による物価の値下がり(=名目GDPの減少)は致命傷となり、赤字決算が続けば倒産します。

「みんなの党」だけではなく民主党内の経済に造詣の深い議員も「デフレ脱却議員連盟」を結成して日本銀行法の改正を検討中です。過日事務局長の金子洋一議員は参議院財政金融委員会で白川日本銀行総裁と論戦を展開し、日本銀行も金融緩和に舵をきりました。

若き日の白川総裁は「金融引き締め的な金融政策をとると、国際収支は黒字となり、円レートは上昇する」とする興味深い論文を発表しています。

日本銀行が重い腰をあげ金融緩和に舵をきったのは円高の是正が目的であっても、正しい選択でした。円高は間違いなく金融引き締め政策がもたらしたものであり、デフレは円高の結果でもあるからです。

通貨管理について国際的な合意が得られるまでは、政府、日本銀行は一体となって通貨安競争に立ち向かう必要があります。

小泉内閣は巨額の為替介入を行って円安としたためデフレには陥らず名目GDPは上昇して税収を増やし、株価も下落した後上昇に転じたためか内閣支持率は激減せず、さまざまの批判に耐えながら5年5ヶ月も続く長期政権になりました。

金融緩和による緩やかなインフレで円高を是正しながら名目GDPを増やし、税金の増収を図る方が民主党にとっても、日本経済の成長にとっては望ましいのではないでしょうか?

今回、日本銀行が国債以外に株券、JREITなどを買い上げ金融緩和に前向きになったことを私は評価しています。

増税や国債発行は「民」から「官」へ資金を移動させる民間窮乏策で不況を促進する要因になりますが、日本銀行が貨幣を発行して民間の債券を買い上げることは「民」への資金供給であり、「民」への資金供給が付加価値の創造に結びつけば名目GDPを増大させ、税収を増やすことに直結します。

税収不足を補うため毎年40兆円を越える返済不能の国債発行を続けていては、アルゼンチンやギリシアのように財政は破綻し政府の信用崩壊によって、ハイーパーインフレに襲われることは間違いないでしょう。インフレターゲットは金融緩和の限度を定めるものでハイパーインフレを防止する手段にもなるのです。

「デフレ」の解釈について学者の空論に振りまわされることなく、政府、日本銀行は一体となって円高を阻止し、財政破綻とハイパーインフレを防止するためにインフレターゲットを設けて節度のある金融緩和を継続することを切望しています。

なお、金融緩和による土地バブルの再来を防ぐために税制の抜本的改正を行うことも不可欠と考えています。

(生活者通信第177号4頁「公地公民の経済政策を!」

http://www.seikatsusha.org/se-tusin/se-2010/2010-177/p-04.htm をご参照下さい。)