生活者主権の会生活者通信2005年08月号/08頁..........作成:2005年07月24日/杉原健児

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通過点としての政権交代

東京都小平市 小俣一郎

 政府税制調査会の報告書が6月21日に公表され、
各種控除について軒並み縮小・廃止の方針が打ち出
された。いよいよ増税時代が始まろうとしている。
 いまや国と自治体の借金は、国債・地方債という
誰の目にも明らかなものだけでさえ合計で700兆
円を超えている。加えて他にも莫大な負債が隠され
ているとも言われる。これは他の先進諸国と比較し
てあまりにも異常である。そもそも政治の根幹は、
集めた税金を公共のために有効に活用することであ
る。いまはその根本のところがおかしくなってしま
っている。                  
 ところが、国民の危機意識はいまひとつ希薄であ
る。増税が本格化するのはこれからで、多くの人の
懐がまだそれほど痛んでいないのがその理由かもし
れない。しかし、遅かれ早かれ、どのような形かは
別として、いつかは国民がその痛みを背負わなけれ
ばならない。                 
 ここで大きな問題は、現在の政権党である自民党
が、小手先でない、抜本的な方策を打ち出すことが
できるのか、ということである。        
 戦後の廃墟から復活した日本は、世界でも屈指の
経済大国となった。国民は、多寡はあるが、一様に
豊かになり、その9割が中流意識を持つまでに至っ
た。まさしく大成功であった。そしてその成功の原
動力となったのが中央集権システムであり、右肩上
がりの経済の中、所得が向上する過程で生じた格差
を是正するためにも中央集権型の分配政治はうまく
機能した。物が不足していた時代には、それを広く
分配することが美徳でもあった。        
 しかし、バブル崩壊を境に日本経済は激変した。
日本はバブル期に量的な豊かさを極めてしまったと
いっても過言ではない。基本的には物が行き渡って
しまったのである。そしてその崩壊とともに、豊か
さが量から質へ、画一から多様へと変化を始めた。
 価値観が、社会が変化をし始めたのだから、当然
政治のシステムもそれに合わせて変化させるべきで
あった。しかしバブル崩壊後もそれまでの成功パタ
ーンは続けられた。だが、それで景気が回復し、税
収が回復することにはならなかった。結果今日の巨
額の負債を抱えることとなった。        
 小泉政権が国民の絶大な期待を背負って登場した
のは、自民党を「ぶっ壊す」、つまり、これまでの
流れを変えることをうたい文句にしたからだ。戦後
の高度経済成長を実現した、安心感のある自民党が、
自ら脱皮をして、新しいシステムに変えてくれたら
これほどいいことはない。国民は最高の支持率とい
う形で小泉内閣を支援した。          
 「地方でできることは地方で」「民間でできるこ
とは民間で」と実に歯切れのよい、また、的を射た
言葉を小泉さんは多用する。大きくなり過ぎた中央
は無駄を生み出し、また地域の創造性を奪い、依存
体質に変えてしまった。財政破綻を避けるためには
その言葉の通り、地域や組織が自立し、地域や組織
が身の丈に合った支出を行っていくしか方法は見当
たらない。                  

 しかし、官僚組織と二人三脚で、中央集権システ
ムに乗って分配を基本とした政治を行ってきたのが
自民党なのである。戦後60年に亘って築いてきた
システムはそう簡単に変えられるものではない。 
 郵政民営化を始め、いまでも巧みな話術で改革を
打ち上げる小泉さんの姿勢は、少なくともマスコミ
に現れる表面的なところでは変わっていない。それ
がこれまでの他の内閣に比べてなお高い支持率を維
持している理由であろう。           
 しかしこの4年間、小泉さんは自民党を、国を改
革することができたのであろうか。「三位一体」の
改革は遅々として進まず、財政赤字も一向に改善す
る兆しは見られない。それは肝心の中央集権システ
ムにまだ本格的なメスが入れられていないからであ
る。そしてメスを入れた瞬間に、これまでの自民党
は、まさしく「ぶっ壊れて」しまう。言葉ではとも
かく、現実には小泉さんといえども、自民党を解党
的方向に導くことはできないのであろう。    
 問題解決のカギは中央集権システムからの脱却あ
る。だとすると選択肢は「自民党以外の政党に政権
を委ねる」しかない。つまり、「財政が崩壊する前
に自発的に政権交代を選択する」か、「あまりの増
税、あるいは、財政崩壊により国民の支持を失い、
結果的に政権交代が実現する」かのいずれかになる。
 民主党がどのくらいの力を発揮するかということ
は未知数である。しかし、マニフェストを作る過程
を経て、より具体的な政策を打ち出している。また、
候補者も単独で過半数を獲得できる数を擁立し、比
例区では自民党を凌駕するところまできている。 
 ともかく、自民党が対処できない以上、民主党に
任せるほかには選択肢がないのである。これは避け
ては通れない『通過点』であるとも言える。   
 自民党は、政権党であることでまとまっている党
である。それが多様な人が結合している要因である
から、政権党である限り割れることは考えにくい。
民主党は、自民党と対抗して政権を争うために多様
な人が結合してできた党である。よって自民党の動
きに連動して大きく変化する可能性を持つ。   
 もちろん、民主党が有効な政策を打ち出し続ける
ことができれば長期政権党に脱皮する可能性もある。
しかし、自民党が政権を離れ、中央集権という楔か
ら解き放たれたときは、自民党が大きく変化するこ
とが予想され、それが民主党にも影響して、これま
でにはない新たな動きが起こることも十分に考えら
れる。                    
 戦後60年の成功体験である「中央集権システム」
という膿を出し切るしか日本再生への道は浮かんで
こない。そしてそれには政権交代が必要である。 
 後は「国民が自発的にそれを選択し、前向きに対
処するのか」あるいは「黒船が来てから慌てて、場
当たり的に対処していくのか」どちらを日本国民が
選択するかである。              
「筆者・小俣一郎氏関連のHP」
 http://netdemocracy.kt.fc2.com/
 http://homepage3.nifty.com/ne/ne/omata/
 http://homepage3.nifty.com/ioio/manifesto/

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