生活者主権の会生活者通信2005年02月号/04頁..........作成:2005年02月03日/杉原健児

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<中国の現実@>
貴方の中国株が危ない

東京都練馬区 板橋光紀

<連載>@貴方の中国株が危ない
    A中国の人件費はそれほど安くない
    B中国の知的財産所有権と司法分権
    C中国の不足する食料、水、エネルギー
    D中国の靖国問題とナショナリズム
           ☆
 中国で仕事をしていると、会話の中で時々「鉄飯
碗=ティエファンワン」と言う言葉が聞こえて来る
ことがある。語意は「食いっぱぐれない」のことな
のだが、「終身雇用」とか「親方日の丸」又は「重
厚長大産業」等の代名詞として使われる。「鉄飯碗
」が形容詞として使われる場合は、「旧態依然」と
か「保守的」、「気位いが高い」又は「進取の気概
に乏しい」等の表現に用いられ、いずれにしても誉
め言葉でないことだけは確かで、つまり「公務員」
又は「国有と公営企業」を指している場合が多い。
 「国有企業」の業態としては放送、通信、金融、
資源、エネルギー、それに兵器製造等、国の重点育
成産業が多い。しかし中には民営にした方が効率が
よい筈と考えられそうな自動車、電子、航空、ゼネ
コン等も含まれている。            
 10年程前、国有企業の数が800万軒と言われ
ていた時代がある。その後民営化、整理解体が大幅
に進んで、最近聞いた軒数は100万軒、しかし数
千万人の職員をレイオフ又は民間への「横すべり」
で振り向けたと言われているのに、総職員数は未だ
に1億人も居るのだと言う。          
 大幅に減っても、ひと昔前の日本にあった「三公
社五現業」とか今なお存続する「独立行政法人や外
郭団体」に似て全員が非効率、その原因が「過剰人
員」、「過剰設備」、「過剰債務」の三点で共通し
ており、過去20年間にわたって右肩上がりの連続
で成長を続けて来た中国経済の将来に「重大な不安
材料の一つ」として改革派指導者達の頭を悩ませて
いる。                    
 昔の日本の「地方現業」にあたる電気、ガス、上
下水道、道路、バス、船、トラック輸送、港湾等、
500万軒もある「郷鎮企業」と呼ぶ「公営企業」
も問題は極めて大きい。「地方分権」の徹底してい
る中国では経済運営も地方自治体の守備範囲であり
、多くの外国資本を誘致して地域を活性化させるに
欠かせない手段であるとは言え、インフラ整備に巨
額の「過剰投資」を引き起こさせ、ただでさえ莫大
な歳出を伴う教育、医療、福祉、年金の運営を公的
資金の導入に多くを依存した自治体の財政を益々圧
迫している。                 
 「国有企業」も「公営企業」も大半が巨額の赤字
を出していて、「過剰債務」の総額は日本円に換算
して30兆円にのぼると言われているが、これはか
なり控えめな数字で、一説によると「0」を一つ付
け忘れているとの指摘もある。日本でも同様だが、
債務総額は集計の仕方で色々違った数字が出てしま
うから、正確な数字を把握している人は一人も居な
いのが本当のところだろう。          
 中国の行政区分は、先ず23省、5自治区、4直
轄市があり、その下に自治州、県、自治県と市、そ
して末端自治体として郷、民族郷、鎮等の町村がお
かれている。                 
 「地方分権」とは、地方政府に独自政策の執行が
許される制度ではあるが、同時に、他の自治体との
間で早期発展を競わせるシステムでもある。従って、
どの自治体も「我田」には外国資本の中でも特に「大
型」で、「ハイテク」産業で、「競争力」の強い、
「高収益」の優良企業を「引水」したいと願うのは
自然だが、時節柄最近ではそれらに加えて、「電気
と水と石油を大量に消費しない」業態や「環境を壊
さない」業種を優先して誘致を働きかける等の贅沢
な注文を付けられる恵まれた自治体も出てきた。 
 自治体同士で競争すれば、資材の輸入や完成品の
輸出に地の利が生かせる沿岸地方が有利だ。内陸地
方は発展から取り残されるか、又は外国資本がたま
に入って来ても、沿岸地域で見向きもされなかった
付加価値の低い労働集約型の業種でしかない。地の
利に恵まれた勝ち組沿岸地域と、ハンデを背負った
内陸地方との発展度合いに格差が生じ、最下位の寧
夏回族自治区とトップクラスの上海市を比べると、
格差の指数は1993年に1対1であったものが、
2004年には1対35へと極端に開いてしまって
いる。                    
 内陸地方の人々に不公平感が漂い、不満が募って
犯罪が多発、社会不安につながって来て暴動発生の
事例も出てきた。去る12月25日にも広東省で、
交通人身事故をきっかけにして5万人規模の暴動に
発展したトラブルも報道されている。      
 「地方分権」とは言っても、北京の中央政府は自
治体トップクラスの人事権だけは手放さないので、
発展が進まなかったり、不穏な空気が察知されると
自治体指導者は交替させられる。交替がイヤならば
自治体の幹部職員達はなりふり構わず高速道路の建
設、電気・ガス・水道等のインフラ整備と工業団地
造りに精を出し、そして有力な外国資本の誘致に駆
け回る。誘致競争に敗れても、内陸の自治体はただ
座視している訳にもゆかない。最近では闘争心が燃
え盛り、内陸の自治体が沿岸自治体の土地を借りて
大きな工業団地を沿岸に造り、そこへ外国企業を誘
致する事例が出てきた。例えば、内陸の湖南省が広
東省の海岸近くに土地を借りて湖南省出身の出稼ぎ
労働者を呼び寄せ、湖南省営のハイテク工業団地を
造るといったケ−スである。この工業団地へ入居し
て来る企業は企業運営に掛る条例と地方法人税や借
地料の支払いに複数の自治体と関ることになる。ジ
−ンズの上にモーニングを着せるみたいなこの現象
を「内聯=ネイリエン」と呼ぶ。        
 中国では如何に人件費が安いとは言え、高速道路
もインフラ整備も、工業団地の造成にも莫大な資金
を必要とする。おまけに、自治体の旗振りでやる仕
事は殆どが安普請だから、永久に続くメインテナン
スにも大きな出費を強いられる。しかしどの自治体
も1/100の資金を用意出来た時点で巨大なプロ
ジェクトにもゴーサインが掛けられ、工事の進展に
合わせて残額の99%の資金を工面していく形にな
る。国有銀行は「省」の格を持つ役所の一つだから
地方自治体の借入れに担保を差入れることはない。
元々潤沢な資金を持ち合わせてなく、早期発展の一
念で「果敢に打って出る」と言うより「無謀に走り
出して」しまう。一旦堰を切ったら止まれない。そ
の後は返済出来る見通しも暗いのに、借金に借金を
重ねて工事を継続、恫喝してでも銀行、郵便局、農
協等から資金を引き出す。           
 自治体間が良い意味での切磋琢磨し合っている間
はまだ良かった。競争が高じて来ると敵を利するこ
とはしない。だからよそ者に自施設を使わせない。
高速道路は自治体毎に料金徴収所がつくられている。
東京から成田空港へ車で行くと通行料金を3箇所で
払わされるのに似ている。           
 どの自治体も、とかく地形上の制約を顧みずに、
しかも隣接自治体と分業したり当てにすることなし
に原発から貯水池、見本市会場にゴミ焼却場や刑務
所までフルセットの各種施設を自前で持ちたがる習
性が強いのも困ったものだ。          
 国中でこれらの異常が当たり前になって来ると、
「債務の概念」は官民共に自覚症状が希薄になって
来るらしい。その結果10年以上前から発生し、特
にこの数年鋭角的に露呈して来た現象は、「条」と
呼ばれる「書き物」が出回り始めたことだ。   
 「仮証券」とか「地方債」だと言えば聞こえは良
いが、戦時中に軍隊がやたらに使う「軍票」とか、
徳川時代に多くの貧乏藩が出入りの商人等から金を
借りる時に発行していた「藩札」と呼ばれる証文に
近い。敗戦になったり、お家断絶になったりすると
「ただの"紙切れ"=中国では"壁紙"と言う」にしか
ならない危うさを持った代物だ。        
 「この証書と引き換えにXX元を支払います」と
書かれてはいるが、支払日が何時になるかは判らな
いし、物価が安定している間に満額が受け取れるか
どうかも保証の限りではない。元禄時代に播州赤穂
藩が取り潰され、城の明渡しに先だって大石内蔵助
が「藩札六分返し」を断行、世間から喝采を浴びた
歴史がある。借金の60%しか返済しないのに好評
だったのだから、当時の「地方債」は50%とか4
0%とかに目減りしてしまうのが世間相場であった
ものと思われる。               
 中国の「条」もこれに近く既に巷ではこれら「準
有価証券」を60%とか50%の金額で現金化する
アングラ金融業者も出現していると聞く。「条」に
は今のところ白条、紅条、銀条、緑条の4種類があ
って、その違いは:              
白条……農家が収穫した農産物を自治体へ供出して
現金化するのは日本と似たシステムになっているが、
自治体で現金が枯渇していた場合、農産物の代金は
「条」で支払われる。             
紅条……国有・公営企業が資金難に陥り、現金が不
足した場合、職員に支払われる給与の一部又は全部
が「条」で支払われる。            
銀条……個人又は企業や団体が銀行を利用して送金
をすると、銀行で資金の到着が確認されても手持ち
現金が乏しい場合、送金金額が「条」で支払われる。
緑条……遠くへ出稼ぎに出ている娘さん達が企業か
ら受け取った給料の大半を親元へ送金する姿をよく
見かけるが、毎月の送金には郵便為替を利用するの
が一般的だ。受取人である親が郵便局へ出向いても、
郵便局に十分な現金がない場合、「条」で支払われ
る。中国の郵便局員の制服が緑色なので、郵便局が
発行する「条」を「緑条」と呼ぶのだと言う。  
 国と地方の借金が1000兆円もありながら、更
に整備新幹線や関西新空港の第二期工事を着工しよ
うとする国の人間が中国人を笑える立場にはないが、
役所が恥も外聞もかなぐり捨てて経済活動に深く関
与し、金融界がグチャグチャになった場合、経済界
は一種の「無政府状態」に陥る。        
 海外との取引には必ず外国為替による決済が伴う。
売り手も買い手も外国為替を扱う取引銀行とは二人
三脚で歩き続けなければ仕事は進まない。それらの
銀行が信頼出来なければ、今日の中国で恒常化して
いるように、経済活動は全般的に動脈硬化症状、そ
して間もなく貿易業務が半身不随状態に陥り、続い
てダッチロール、その先はブラックホールへ突入す
るのは必然である。              
 我々は海外進出を決定するに際して、重要な項目
だけでも100にのぼるチェックポイントにわたっ
て「フイジビリテイースタデイ」と呼ばれる調査を
行う。100の内99項目についてハードルをクリ
アーさせても、「銀行の信頼性」の部分で「不合格」
となった場合、総評価成績は99点ではなく「0点」
にしてしまうのが常識だ。「お見合い」のケースと
同じことで、家柄が良く、高収入、高学歴、明るい
スポ−ツマンで健康体、おまけに長身のハンサムボ
ーイで申し分無しと思われた相手でも、最後に唯一
の欠点が虚言癖であることが判ったとたんに、全て
の美点が一挙に帳消しとなって、親としては娘を嫁
にやる気が変わってしまうのに似ている。    
 我々日本人は類似の事例を多少経験しているだけ
に、今の中国を観察していると「見馴れた芝居の進
行を見ている」かのような錯覚に陥り勝ちだ。今か
ら中国へ進出することを考えている人が居るとすれ
ば「お止めなさい」と忠告したい。更に、既存の進
出企業で撤退を検討している企業があるとしたら、
悪弊の傷口が更に大きく開く前に速やかに工場を畳
んで、損害を最少に食い止めるべきだ。既に赤の他
人同士の売買だと、前渡金を支払わなければ納品し
ないような、ささくれ立った世の中になってしまっ
ている。                   
 強いて事を成そうとすれば、「地下銀行」の活用
を余儀なくされる等、売買の当事者が手を汚すこと
がなくとも、間接的に「裏社会」と関り合うことに
なる。ソ連崩壊後のロシアや、南米コロンビアの宝
石売買にも見られたように、マフィアの約束の方が
よっぽど信用に足る社会通念を現出させているから
だ。                     
 マフィアがイヤならば「政治献金」と言う名の禁
じ手を使って、高官に「口利き行政」や「官製談合」
を頼む他ない。党幹部や高級官僚の収賄が摘発され
て、副省長クラスが死刑に処せられたニュースも度
々新聞の一面を飾っている。摘発はいずれも不満分
子による党風紀委員会への「投訴=密告」によるも
のと聞いている。               
 近い将来、大小の暴動が多発して外国資本は次々
と撤退、大きなトガメが表面に出て来て中国経済は
失速状態に入るだろう。28兆円の負債を塩漬けに
している日本の旧国鉄みたいな重症患者が何万軒も
出て来てしまう可能性がある。         
 事態の局面打開方策は極めて限られる。取敢えず
中国政府はインフレが急速に進まない程度の速度で
大量の紙幣を発行し、「条」の回収によって金融機
関と国有・公営企業の「借金棒引き」を謀るものと
予想される。通貨の価値が相当下がる可能性はある
が、折から中国の元は強過ぎるから「通貨を切り上
げろ」との国際的な大合唱もあることだ。印刷機を
回す程度の手間ヒマで切り上げ圧力が中和され、為
替レートの維持も叶えられれば一石二鳥、不幸中の
幸いではないか。常識的俗論かもしれないが、シン
プルでエレガントな延命効果ではあるだろう。それ
にしても日本と中国ではどちらが真似をしたのかは
知らないが、悪いところが色々よく似ている。  
 筆者があたかも中国の恥部を片っ端から暴いてい
るかのように受け止められては困る。隣国でしかも
13億人の人口をかかえる大国だけに、中国が潰れ
ると日本も甚大な連鎖被害を被るわけで、日中双方
の為政者に適切な舵取りをするように提言している
だけなのだから。それに、日本の評論家とメデイア
はこれらの事態に気がついていないのか、又は知っ
ていても国外退去等の制裁措置が怖くて触れずにい
ようとするせいか、景気の良い部分ばかりを伝えて、
恥部の分析と報道を怠っているのが残念だ。   

生活者主権の会生活者通信2005年02月号/04頁