生活者主権の会生活者通信2004年11月号/06頁..........作成:2004年11月07日/杉原健児

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<ネットデモクラシー特集>
仮想自治体
−インターネットだから可能な完全民主主義社会の実現−

千葉県柏市 峯木 貴 (mineki@taurus.bekkoame.ne.jp)

 私がホームページ(The Waste and Garbage Club
 - 環境と廃棄物の研究)を開設したのは1996年2月
だから、現在までおよそ10年の年月が経っている。
ご存知のようにインターネットはアメリカの軍事情
報の分散化(安全化)のために1969年からアーパネ
ットを運用したのが始まりで、その後徐々に民生用
に転用された。民生用といっても当初は研究者が専
ら研究論文を検索したり、研究者同士のコミュニケ
ーションに利用されたに過ぎない。しかし、ネット
スケープの前身であるモザイクというブラウザーが
開発され、初めてインターネットを我々大衆が利用
できるようになった。それが、10年ほど前の出来事
である。その後の開発は目覚しく、今日のように動
画や音楽のほか信用取引もインターネット上で行わ
れている。                  
 ここでは、さらにその利用が発展し民主主義が生
まれているという事例と、インターネット空間を徹
底的に利用した「仮想自治体」の可能性を述べる。

●現実に起きたインターネット上の民主主義   
 インターネット上に落書きをすることができる。
掲示板というページに行くと自由に自分の意見を書
き込むことができる。その書き込みに対して他人が
さらに書き込むこともあり、それが面白い議論にな
ると次々と書き込まれ一つのコミュニティーに発展
する。一方、誹謗、中傷が書き込まれるとその掲示
板は人気がなくなりインターネット上から姿を消す
ことになる。                 
 このようなシステムが使われたかどうか分からな
いが、「100人の地球村」            
(誰かが私に興味深いお話を伝えてくれました  
 もし現在の人類統計比率をきちんと盛り込んで 
 全世界を100人の村に縮小するとどうなるでしょう
  その村には…               
  57人のアジア人              
  21人のヨーロッパ人            
  14人の南北アメリカ人           
  8人のアフリカ人がいます         
 という書き出しの物語)がインターネット上で生
まれた。始めに誰かが書き始めたものに、誰かが加
筆修正し物語が出来上がったものだが、最終的には
書籍も出版され、現在はインターネット上にこの物
語を主題としたコミュニティーが育っている。  
 他の例では、Linuxの創始者リーナス・トーバル 
ズが自分の作ったパソコンの基本ソフトをインター
ネット上に公開して、自由に利用させ修正させるこ
とにより徐々にソフトを改善していき、基本性能で
はMS社のウィンドウズを凌ぐものにしている。また、
Linuxの愛好者はインターネット上に巨大なコミュ 
ニティーを作り上げている。          
 このような事例はインターネットの「オープン」、
「グローバル」、「インターラクティブ(双方向)」
という機能を余すことなく発揮しており、極めて民
主主義的な結論を出したものといえる。     
 インターネット上で増殖しているのは、かつてリ
チャード・ドーキンス(「利己的な遺伝子」の作者)
の予言した「ミーム」に他ならない。「ジーン」は
物質である遺伝子だが、「ミーム」は言葉の遺伝子
である。言葉は、波長が合えば次々と人伝いに感染
していき、自己増殖するものである。これが大衆の
心を動かす力となりえる。           

●仮想自治体の可能性             
 このような自然発生的に民主主義を作り出すツー
ルであるインターネットを、もっと積極的に利用す
る方法を常々考えていた。仮想自治体はその一つの
方法である。ここでいう仮想自治体とは私が考えた
造語であるが、自治を行う主体が仮想空間にあるも
ので、我々生身の人間は普通どおりに現実の世界で
暮らす。仮想自治体に必要なものは、選挙で選ばれ
た首長とそのスタッフ、選挙で選ばれた議会、そし
てホストコンピュータと市民全員が所有するクライ
アントコンピュータである。          
 首長がいて、議会があって、市民がいる。これで
は現実の世界とあまり変わらないのではないかと思
われるかもしれない。しかし、自治体という中央集
権的な組織が、コンピュータという仮想空間にあり、
市民に対してインターネットを介して開放されてい
るのである。これにより市民を自治体の組織として
取り込むことができる。現在のように、インターネ
ットを補完的に利用するのではなく、自治体の主体
がインターネットを介在した市民そのものであると
ころが大きな違いである。           
 例えば、都市計画を立案するとしよう。今までな
らば自治体の役人が計画を作り縦覧すると、時間と
共に決定されてしまい、山が削られ、道路が作られ、
いつの間にか建物が建つことになる。しかし仮想自
治体では、都市計画の案の段階から市民が審議する
ことになる。非常に時間がかかるかもしれないが、
市民が納得した上で都市を作ることができる。もし、
利害関係者の一人が反対したとしても、案の段階な
ので修正が効くし利害の調整もできる。     
 また別の例で、近くの道路を直す場合、今までな
らば市役所に陳情に行ったり、それでもだめならば
議員に請願したりと、大きなエネルギーが必要だっ
た。また、このような小さな道路を市民の皆がどの
ように考えているかも分からなかった。しかし、仮
想自治体では市民がこのような些細なことでも議案
に上げ、委員会として立ち上げ、インターネット上
で議論することができる。利害関係者は互いに意見
を出し合い、解決に向ける。最終的には工事の見積
書が上がってきて、それが予算案となる。その予算
案も常時市民が見ることができるため、無駄だと思
えば意見を出せるし、もっと安く上がるならば、見
積書を再提出することができる。        
 もし、ネット上の委員会で誹謗、中傷が出た場合
はどうするか。「バカ、死ね」というような言葉は
コンピューターが自動的に拾い上げ抹消することも
できるし、その委員会を閉鎖することもできる。首
長のスタッフは常に委員会を監視し必要とあらば仲
裁に入ることもある。             
 このように吸い上げられた予算案は、首長の判断
で決裁を下し、議会に付議し承認を得る。    
 このように、仮想自治体は、ほぼ完全な形で民主
主義を実現することができる。そして、運用の経費
も安く、風通しの良い組織となる。       

生活者主権の会生活者通信2004年11月号/06頁