生活者主権の会生活者通信2004年03月号/07頁..........作成:2004年03月14日/杉原健児

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「一票の格差」及び「非拘束名簿式比例代表制」
に関する最高裁判決について

埼玉県所沢市 河登一郎

1.H16年1月14日、最高裁で「平成13年参議院選
 挙における一票の格差と非拘束名簿式比例代表制
 に関する違憲訴訟」に対する最高裁の判決が下さ
 れた。                   

2.結論は両訴えとも「棄却」。即ち、選挙区によ
 って一票の価値に5倍もの差が生じても、それは
 「立法権の裁量」の範囲内だから違憲ではない、
 という従来からの最高裁判決を変えるには至らな
 かった。                  
    ただ、今回の判決では違憲と判断した6名の厳
 しい意見に加えて、合憲と判断した9名の裁判官
 の中4名も、「次回も現状のままなら、違憲判断
 になる余地あり」との意見を付したことが特筆さ
 れ、今後の展開に期待が持てる結果となった。こ
 の点については後記4、に詳述するが、その前に
 今回の訴訟の内容をもう一度簡単に要約してみる。

3.訴状の要約:               
    (詳細は、生活者通信2001年4月号参照)
 (1)一票の格差:平成13年7月に行われた参院選挙
 では、人口最大の東京都(人口147万人で議員一人
 しか出せない)と最小の鳥取県(31万人で一人)
 との間では実に4.8倍(立法時:選挙時点では5.06
 倍)の大差がある。これは日本国憲法で保証され
 た、国民の普通・平等選挙権に違反し無効である。
 (2)非拘束名簿式比例代表制:これは平成12年の公
 職選挙法改正でそれまでの「拘束性」から変更さ
 れたもの。投票に際して、特定候補者個人に投票
  しても、その所属する政党の得票とみなされ、そ
 の政党内の得票数の多い順に割り当てられる。  
  その結果、特定候補者に投票してもその候補者
 の得票数が少ないと、得票数の多い別の候補者に
 まわされてしまう。つまり、投票者の意思に反し
 て票が横流しされる結果になる。これは改正手続
 きの不明朗さともあわせ、「直接選挙」を予定し
 た憲法諸規定に違反する。          

4.今回の最高裁判決についての補足:     
 (1)判決に先立つ最終公判(昨年12月)では、大法
 廷弁論と云って原告弁護士10名がそれぞれの立場
 から1時間強にわたって違憲性を主張された。こ
 れは過去何回も行われた違憲訴訟でも異例とのこ
 とである。                 
 (2)判決は「一票の格差」と「非拘束名簿式比例代
 表制」とに分けて行われ、両方とも訴えは「棄却」
 されたことは前述の通りだが、そのうち「非拘束
 性…」については裁判官15名全員が合憲と判断し
 たのに対し、「一票の格差」については15名中9
 名が合憲、6名が違憲と判断された。     
 (3)従来から、違憲の訴えを支持した裁判官は数名
 いたが、それらはいずれも弁護士・学者・法務省
 以外の官僚出身で、法務省出身の裁判官はほぼ常
 に合憲判断だったことは興味深い。三権分立の一
 つの頂点である最高裁判事が政府の方針を守る結
 果になっており、司法が行政と立法に従属してい
 る、と批判される所以である。大統領の権限が強
 いアメリカでさえ、下院では 1.5倍が厳しく守ら
 れている。(上院は合衆国の名残りあり、事情が
 異なる)                  
 (4)違憲判断の裁判官からは、「最高裁が憲法上認
 められた違憲審査権を自ら放棄するなら、別途憲
 法裁判所が必要」、「国会に一票の格差是正を期
 待するのは百年河清を待つに等しい」など厳しい
 注文がつけられた。             
 (5)今回特に注目すべきは、合憲と判断した9名の
 裁判官のうち4名が、「次回も現状のままなら違
 憲判断となる余地あり」との意見を付したことで
 ある。(*)参照。「次回」とは今年7月の参院
 選挙 だが、それまでに議員定数を是正する立法
 措置が間に合うとは思えないので、本格的な違憲
 判決が出るとすればその次=3年後になろう。従
 って、今年の選挙後に当然行われる予定の違憲訴
 訟では、一挙に10対5で「違憲」との歴史的判決
 にはなるまいが、一段と踏み込んだ判決が期待さ
 れる。正しい運動を諦めずに継続すれば「遅々と
 して進む」のである。            

5.次回違憲訴訟には、当会からももっと多数参加
 され、大きな運動に盛り上げませんか。会員各位
 の積極的なご参加を期待します。       

(*)公平のために、あくまでも合憲とする裁判官
5名の意見を一部引用すると、単に「立法の裁量範
囲」と違憲判断を逃げている訳ではなく、人口比で
議員数を割り振ると人口の少ない15の県では議員定
数が1人となって6年に1回しか投票の機会がなく
なり(通常は3年毎に半数づつ)、別の意味で不公
平が生ずる、という。これに対する反論も行われて
いるが、きりがないのでこのへんにします。皆さん
はどう考えますか?              
 ご関心あれば、1月15日付け朝日新聞の判決要旨
が良くまとまっていますのでご参照下さい。   

生活者主権の会生活者通信2004年03月号/07頁