生活者主権の会生活者通信2004年01月号/03頁..........作成:2004年01月24日/杉原健児

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志木市の英断に学べ

練馬区 板橋光紀

 マニフェスト選挙のほとぼりも褪めやらぬ去る11
月11日、埼玉県志木市が「市の職員の数を半減させ
る」発表をしたとのテレビ報道があった。私はかね
てより役所の肥大化と国や地方自治体の財政悪化の
根源が公務員と準公務員の数が多すぎることにある
と見ている。役所が運営する数多くの事業やシステ
ムはたとえそれらが時代にそぐわない物になったり、
必要度が著しく低下したりしても変更なしに運営が
継続されがちだ。継続される表向きの理由に「市民
のために」を掲げるに違いないが、役所側が絶対口
にしない本音は「公務員の仕事量を確保し続ける」
ことにあると考えられる。           
 たとえ過剰の人員がいたとしても公務員の身分は
法的に二重三重に守られており、おまけにストライ
キ権を持たない公務員に対する ILOの保護勧告とや
らが障害となって、警察沙汰になるような犯罪を引
き起こしでもしない限り公務員を解雇させることは
難しい。従って「半減させる」の文言が「生首を斬
る」意味ではないであろうことは想像できたが詳し
い説明はなされなかった。しかし続いて解説するテ
レビキャスターの話の中に「市民との協働による行
政運営」とのキーワードを見い出し、俄然私は志木
市が進めるプロジェクトに興味を掻き立てられた。
 早速志木市役所を訪ね、プロジェクトの推進を担
当する村上孝浩主幹からロードマップを含む多くの
資料と十分な補足説明を提供いただいたので本誌を
かりて以下に紹介したい。読者諸兄には以下を読む
前に志木市のホームページを開いて資料に目を通す
ようお勧めする。               
 志木市は埼玉県南部、新座市を挟んでいるが東京
練馬区に接しているような位置にある。東武東上線
志木駅から都心までは乗り入れた地下鉄有楽町線に
乗れば30分で着いてしまい、東京のベッドタウンと
しては理想的な位置にある。人口は年々微増して現
在6万7千人ほど、この中には 800人位の外国人居
住者が含まれる。市の職員数は 500名余り居り、市
長は平成13年7月に無投票で初当選したという異色
の穂坂邦夫氏。60歳を少し回った男盛りで、市議を
4期と県議を5期務めた地方政治のベテラン、地方
分権の確立にすこぶる熱心な人だ。       
 言うまでもなくこのプロジェクトは市長就任以来
穂坂邦夫氏の強烈なリーダーシップによって準備が
進められて来た訳だが、進めなければならない背景
には志木市も日本の多くの自治体が抱える共通の難
題に直面しており、問題が悪化してからのリカバリ
ーは益々困難になることが明白であるとの危機感を
深刻に認識していたことがある。その難題とは、 
@住民の少子高齢化傾向は避けられず、現市財政は
  黒字にあるも、これまでの国主導による行政運営
  を漫然と続ける限り、行政需要の増大、税収の減
  少、国の交付金減額傾向等により、近い将来赤字
  に転落することが明らかである。       
A役所の機構とその行政サービスは放っておくと必
  ず肥大化してしまう習性がある。役所は永続的な
  財政の健全化を確保し、かつ市民から安心と信頼
  が得られなければならない。しかし現実はその逆
  で、役所が市民に喜ばれる行政サービスを謳って
  事業を広げても住民の不満の声は絶えず、財政赤
  字は起債で穴埋めし、後世にその付けをまわす羽
  目に陥りがちだ。              
B地方分権は時代の流れだが、実現は地方が自立す
  ることが前提で、それには市民自ら主体となって
  考え、市民が参画する形で市政の運営がなされな
  ければならない。              
                       
  穂坂邦夫氏が市長就任に際して掲げた公約が三つ
ある。それは、                
  @市民参加による町づくり          
  A情報公開の徹底              
  B行政評価制度の導入            
である。新市長の大号令でスタートした「市職員の
半減」と「市民との協働による行政運営」のプロジ
ェクトは二年間の準備期間を経て固められ、市議会
の条例議決を経て施行の運びに到った。     
 プロジェクト達成へのロードマップは以下の通り
である。                   
@現有 500余名の市職員が全員停年まで市職員とし
 て勤続する場合、毎年20〜25名が退職して、平成
 33年ごろには 300名ほどに減って 200名ぐらいに
 なることが判っている。しかしこの間新規採用は
 せずに済ます。既存職員の中途解雇はしない。 
A現在市の事業として実施している1648の事業全て
 を見直し、そのうち 430の事業を廃止または縮減
 する。継続する事業については今後も公務員が行
 うべき業務と市民協働で実施できる業務とに仕分
 ける。                   
BNPO 法人、ボランティア団体などの市民活動団体、
 この制度の趣旨に賛同する複数からなる個人で組
 織されたグループで、市役所との協働を希望する
 団体に登録を呼びかけ、市はそれらの団体の名称、
 構成員名簿、責任者、能力、事業計画書、予算・
 決算報告書などの提出を求めて掌握する。   
C毎年減ってゆく市職員の最大業務処理能力を勘案
 しながら、市庁舎受付窓口サービス業務、郷土資
 料館運営業務、図書館や運動場、公園の管理運営
 など、高度の公権行使や行政判断、機密守秘を余
 り必要としない業務や事業は相応しい市民活動団
 体を選定し、その運営を有償で委託する。   
D事業運営を市民活動団体へ移牒することによって
 その業務を解かれた市職員は配置転換または定年
 退職者の後任等により別の任務に就かせる。  
E市民協働を効果的に推進する為、市が委託した業
 務が受託団体によって適正に行われているか、市
 民の満足度などを評価する第三者機関を設置し、
 運営方法の改善などサービスの質の確保が図られ
 る。第三者機関の構成は行政と市民の混成で成る
 ものとする。                
Fこのほか登録要件、委託団体の選定方法、委託契
 約に伴う義務事項、委託料、事故保険、運営に必
 要な研修要項等がこまごまと規定されている。 
                       
 この他市民の中から市政に強い関心と改革に熱意
のある人々 252名を公募、市民委員会を発足させ、
9つの部会に分かれて必要な提言や調査研究を行う
システムも新設されている。          
 「公務員を減らすには新規採用を止める」は何年
も前に私自身にも浮かんだアイデアであった。早速
親しい公務員の友人に提案してみると、「新規採用
をたとえ短期間でも止めると職員の年齢や経験年数、
役職等のバランスが崩れて、スムースかつ永続的な
行政運営に支障が生ずる」とのことだった。役所の
職員構成にどうしてもバランスが必要不可欠なら、
新規採用ストップは問題と言えなくもない。しかし
「少子高齢化」と「財政悪化」といった「双子の非
常事態」を目前にした穂坂市長にしてみれば、職員
構成のアンバランスなどのマイナーな不都合を気に
かけて大改革をためらってなんか居られなかったの
だろう。                   
 仕事柄私はいろいろな国々で各種の役所へ出入り
してきた。概して欧米諸国ではボランティア活動が
盛んで、コミュニティー単位での市民による自治運
営が進んでいる。役所の仕事はインフラ整備と環境
保護、そして真に不幸な人々に手厚い福祉は施すが、
それ以外はあまりやらない。役所の職員数も少ない
し、市町村議会が度重ねて長期間開かれることもな
い。地方自治体の議員は無報酬で名誉職に過ぎない
所も多い。反対に日本の役所は「やりすぎ」だ。 
「企画」等と言った部署を作って職員達は年がら年
中「何か新しい事業はないか」を探し回っている気
配さえある。                 
 人口6万7千人で市の職員数が 500名余りの志木
市でも1648にのぼる事業を行っていたとは驚いた。
私の住む東京練馬区は人口が志木市の約10倍で、23
区の中でもトップクラスの大財政赤字が慢性化して
いる自治体だから事業数の方もさぞかし多いことだ
ろう。多くの地方議会議員たちは日頃からドブ板を
渡り、「区民の声を政治に反映」と称してこまめに
支持者の祝儀・不祝儀・イベントに参列、商売の口
利きやら子弟の就職に駆けずり回ったりして議員と
しての本分を忘れがちだ。そしてそれら有権者へ個
人的に面倒見のよい人に限って「よく働く議員」と
評されて次回の選挙で再選されてしまい、市民との
コミュニケーションに欠けていても郷土を愛して正
論を吐き、事業の廃止やサービスの縮減を主張する
熱血政治家は落選する傾向にあるからやりきれない。
                       
 私は志木市のプロジェクトに関する資料を何度も
読み返し、「これなら達成出来る」との確信を得る
と同時に、目から鱗が取れたような気がする。今後
の推移を見守りたい。断行を決断した穂坂市長を高
く賞讃し、目標に向かって走り出した市職員と志木
市民に喝采を贈る次第である。         

生活者主権の会生活者通信2004年01月号/03頁