生活者主権の会生活者通信2003年10月号/04頁..........作成:2003年09月24日/杉原健児

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産業政策に関して

練馬区 大川尭士

 歴史の授業の中で、昔中国の、時の為政者が、蚕
の持ち出しを禁じていた事を教わってから久しい。
 現時点での産業政策は、「国の予算処置により夫
々の国の政府が、戦略性をもって、夫々の国のある
種の産業や技術を、教育・人の養成・技術の開発・
製品化・産業化等を通して、他の国よりも何等かの
形で優位性をもった産業に育て、雇用の確保や新し
い産業による何等かの享受等を通し、直接当該の国
民の生活を豊かにするばかりではなく、時に貿易を
通して国や国民に海外から何等かの富をもたらす事
を目標とする」といったものと理解している。勿論、
この政策には、特に日本の場合には、資源の確保・
輸送路の安全確保・知的財産権の保護から教育に至
るまで、様々な施策が関係してくる。      
 今やバブルというトンネルを通過しているが、IT
(情報技術)産業は、USA の産業政策として、19
90年代からの10年間を華やかに登場した産業で
あり、その結果人の扱う情報量は急激に増加した。
では、その前は、どうであったかと言うと、やはり
IT産業はあったわけで、半導体から光ファイバー、
コンピュータに至るまでの様々なIT技術産業が生ま
れ、それらの技術製品群が次々に世代を重ねて来て
いる。ただ、それをIT技術産業として凝集したのが、
時のUSA 政府のIT技術産業政策と言う大きな産業戦
略で有ったと考える。過去において、有力な各国は
夫々産業政策を維持してきているが、IT技術を大き
な産業の柱として、そこに一点に集中的にスポット
ライトを当て戦略的に大きく育成する施策を生み出
したという所に、時のUSA 政策立案者のすごさを感
じる。                    
 現在、USA に明確な産業政策が見えないと言う論
もあるが、IT技術産業のように華やかな登場こそは
していないが、大統領教書を基に、全ての産業の共
通基盤とも言える、ナノ技術の振興策に大きな予算
が割かれている。               
 日本では、半導体を始めとして、材料から加工技
術に至るまで、ばらばらではあるが、USA の大統領
教書に取り上げられる前から、ナノ領域の研究開発
がかなりの予算のもとで進められてきている。ただ、
USA の大統領教書に取り上げられるに及び、初めて
とも言える状況のもと、一つに纏めた包括的な技術
開発の考えが導入されたように思える。     
 これらの技術は、ITの場合もそうであったが、も
ともとはコストとは無関係とも言える、また同時に
あまり表面に出てこない、USA の軍事産業技術開発
と言う予算の中で育まれてきた技術とも言える。 
 こういった、軍事技術開発予算を多く配分してい
る国は、何もUSA ばかりではなく、中国もそうであ
り、現代の強兵策の一環とも言える政策になってい
る。                     
 日本の場合は、数々の民生品を生み出し貿易の輸
出国の地位を確保するようになったが、ベースにな
った技術は案外にUSA の軍事技術に種があったとも
いえる。                   
 一方、過去の日本の産業界によるUSA 軍事技術の
民生利用の状況を学んだUSA は、時代を経るに従い、
単に軍事技術の民生化のみならず、知的財産育成・
保護政策をもますます積極的に行うようになり、技
術やソフトの囲い込みを強化して来ている。   
 その、大きな産業政策の華がUSA のIT技術産業で
あり、そして今現在は、単にナノ技術開発ばかりで
はなく、医療・バイオ等、将来お金になりそうな産
業分野での戦略化が激しく進められている。   
 日本の場合、過去、IT産業化戦略に遅れをとり、
そしてナノ技術政策が、3年前であったか、USA 大
統領教書に記載されるに及び、予算の戦略配分の考
え方が大きく導入される様になったと考える。現在
では、IT・ナノ技術・ライフサイエンス・環境等重
点4分野の考えの導入や内閣府での有識者の重点分
野に関する審議も行われるようになって来ている。
 ただ、日本の予算制度の中で、一番の問題点は、
その予算配分の問題にあり、その省庁間の配分が、
時代の変化を反映した結果にはつながっていないと
言うことにある。予算の戦略的な配分が出来るよう
になれば、日本の産業政策ももっと大きく変わるも
のと考える。                 
 日本の戦後を通しての大きな政策は、まず日本の
産業政策をどうするかにあったかであり、最も大き
な影響をもたらしたのは、池田元首相の所得2 倍政
策、田中元首相の列島改造政策にあった。いずれの
政策も、日本の人口密度分布を大きく変えた政策に
なり、人々の都市への移動を通して、日本の農業人
口は激減してしまった。だが、産業上その人口は何
処にいったか。所得倍増政策では爆発的に拡大した
製造産業に勤労者として移り、列島改造では土木建
築会社、特に零細な土木建築業が多くの人々を吸収
したと言える。ただ、その後の政府は、次の新しい
施策が取れぬまま、ずるずると先人の政策を継承し
てきた。                   
 一つは、食料の安全保障政策による国内農業への
補助政策であり、今や日本の農業人口の平均年齢は
62歳。間もなく、現在の農業の安楽死政策とも言え
る。いずれ、日本の農業政策の大変革が必然的に始
まる(始めざるをえない)。農業の企業化を初めと
する規制の緩和。世界に先駆けた農業技術の開発等。
今までの補助金が、農業の技術開発に使われていた
ら、日本の農業はどれだけ変わっていたか、クレオ
パトラの鼻の話になってしまうが、そう思わずには
おれない。                  
 では、二つ目は、日本の人口を大きく吸収した土
木建築業に、公共工事を通し、金を回せば景気が良
くなるの政策で、公共工事にお金が回されてきた。
しかしその世代も時代の表舞台から去るべき時が来
ている。高齢化の時代を迎え、土木建築業に、いく
らお金を回しても景気は良くならない時代が来てい
る。                     
 小泉政権の公団等の民営化は,一種の産業政策と
も感じられる。すなわち、民営化は大樹の陰にいる
人を追い出す政策であり、また、産業界のリストラ
は団塊の世代の表舞台からの退却であり、結果的に
足早に日本の年齢別人口構成にあわせる政策とも思
える。                    
 そして、韓国・台湾・東南アジアそして中国の出
現が、日本の産業を担う人々の若返り化と低賃金化
を加速している。               
 技術力のない零細土木事業者には気の毒だが、そ
の方々が今や表舞台から消える事が求められている
し、また、公団などでふかふかの椅子に座っておら
れる方も退陣の時が来ている。         
 いまや、新たなる産業を担う、大・中・小のベン
チャー的な企業の到来が求められ、すなわち日本と
言う国とそこに暮らす人々の豊かさを維持する為、
新しい思考による新しい産業が求められ、そこに多
くの人々が移る事が求められている。産官学連携な
ど、縦割りの日本に横串を通す実験も始まりつつあ
る。                     
 多くの人々が、新しいベンチャーの世界に挑戦し
ていくためにも、その後衛をしっかり維持する事が
求められ、そのためにも、安全と安心が求められ、
そこには、刑法の見直しをはじめ、教育の変革も急
務であると考える新しい産業政策は、すなわち日本
の富国策とも言える。             

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