生活者主権の会生活者通信2003年09月号/06頁..........作成:2003年09月24日/杉原健児

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道路公団の「財務諸表」問題について

杉並区 片山光代

 日本道路公団が作成した民間基準による財務諸表
の真偽が問題になっている。公団が今年6月に公表
した2002年度の「民間企業並」財務諸表では、資産
総額34兆3千億円で5兆7千億円の資産超過となっ
ているが、実は公団内部で2000年度を対象に作成し
た財務諸表では6千億円余りの債務超過だったとい
うものである。公団内部でも改革派と目されていた
幹部が地方に左遷され、この幹部が債務超過の財務
諸表の存在を内部告発したことから明るみに出た。
 このニュースを聞いたとき、私は首をかしげた。
国や地方自治体に、発生主義会計や貸借対照表など
の民間企業並みの正確で効率的、かつ透明性の高い
会計制度を導入させる運動を進めてきた私は、公社、
公団などの会計制度がどうなっているかを調べたこ
とがある。そのときの記憶では、様々な性格の公社、
公団のうち、業務内容が民間企業に近いものは、す
でに民間企業並みの会計方式を採用していた。  
 道路公団といえば、お金を借りて高速道路用地を
買収し、道路を建設して、完成すればこれを利用す
る自動車から通行料を取り、この収入で借金を返済
していくという、規模こそ馬鹿でかいものの、仕事
の中身はまさに民間企業と変わらないはず。当然、
昔から民間企業並みの会計を採用していると思って
いた。                    
 そこで、念のため「日本道路公団法」(以下、 
「公団法」)という法律を読み返してみた。   
 第23条(決算) 公団は、毎事業年度の決算を翌
 年度の7 月31日までに完結しなければならない。
 第24条(財務諸表等)公団は、毎事業年度、財産
 目録、貸借対照表及び損益計算書(以下この条に
 おいて「財務諸表」という。)を作成し、決算完
 結後一月以内に、国土交通大臣に提出し、その承
 認を受けなければならない。         
 A公団は、前項の規定により財務諸表を国土交通
 大臣に提出するときは、これに予算の区分に従い
 作成した当該事業年度の決算報告書を添附し、並
 びに財務諸表及び決算報告書に関する監事の意見
 をつけなければならない。(以下略)     
 この条文が何時から公団法に盛り込まれたのかは
詳らかでないが、現に日本道路公団のホームページ
には1998年度以降の財務諸表が掲載されている。と
ころが、この財務諸表の2002年度のを見ても、冒頭
に掲げた数字とは大分違い、資産総額42兆7千億円、
資産超過2兆3千億円である。         
 冒頭の数字は、「プレスリリース」の「バックナ
ンバー」を探してようやく出てきた。つまり、冒頭
の数字は「民間企業並」の基準で試作した「概算値」
であって、公団法に基づいて作成された「正規の」
財務諸表とは別なのだ。そしてこの「民間企業並・
概算値」が、公団が今年6月に発表したものと、昨
年7月にプロジェクトチームが作成したものと、ど
ちらが正しいかというのが、今回の騒動の発端なの
である。                   
 ここまで調べて、私は一つの教訓を得た。貸借対
照表や損益計算書などの財務諸表を作っているから
と言って、だまされてはいけない。 公団の正式な
(法律に基づく)財務諸表の一番の特徴は減価償却
を実施していないことらしい。道路のようなインフ
ラ資産は常に最良の状態に保っておかなければなら
ないので、減価償却という概念にはそぐわない、と
いうのが理由である。ことほどさように民間とは会
計基準が違うのだ。それを知らずに貸借対照表を見
るだけでは、私たち国民はまったく違う方向にミス
リードされかねない。             
 さらに、今回の騒ぎでも分かるように、「民間企
業並」といっても、会計方針や数字の捉え方の違い
で資産超過になったり債務超過になったりすること
がある。これはしっかりと監査で精査するしかない。
公団側はこの「民間企業並」財務諸表の監査を拒ん
でいた。                   
 今回の騒ぎを受けて、監督官庁の国土交通省は監
査を指示したが、1ヶ月で監査しろといって監査法
人から軒並み断られたという。いかに役所が監査を
軽く考えているかの現れである。        

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