生活者主権の会生活者通信2003年06月号/03頁..........作成:2003年07月06日/杉原健児

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南信州の「住民自治」を訪ねて(2)

渋谷区 岡部俊雄

町民が主役まちづくりフォーラム      
―地域の自立をめざしてー         
 このフォーラムは「町民が主役まちづくりフォー
ラム運営委員会」が主催したもので、松川町役場内
の会場には150人を越える参加者で満席の盛況で
した。                    
 日曜日とはいえ、都市部でもこういうテーマでこ
れだけの参加者はなかなか集まりません。この問題
に対する町民の関心の高さを知る思いでした。  
 フォーラムでは二人の講師の講演がありましたが、
ここでは講演の内容を紹介するのが主旨ではありま
せんので、講演の要旨と私が感じたことを要約した
いと思います。                
 また、後日このフォーラムの主催者の一人である
松川町役場住民課住民係長片桐雅彦氏より"この新
たな第一歩を着実なものとしていく努力が必要だと
考えている。"旨の力強いメールがありました。 
                       
「自律」する自治体をめざして       
―市町村「自律」研究報告からー      
講師 長野県総務部市町村課まちづくり支援室
              林  宏行  氏 
 この報告書は市町村「自律」研究チームが、平成
14年10月に県内4町村の職員と県の職員による
プロジェクトチームとして設置され、各町村の目指
すべき自治の姿や地域づくりの方向を明らかにし、
財政の将来シミュレーションも踏まえながら、最大
限の自助努力行う「自律」の姿を提示することを主
眼として実施されたケーススタディ報告書です。 
 この「自律」という言葉は田中知事の行政用語と
して使われており、この研究チームが発足するに当
たっての知事からのメッセージを極々簡略化します
と、                     
 "税財源の移譲を始め、遅々として進まぬ地方分
権議論の一方で、少子・高齢化の進行、地方交付税
の削減など、基礎自治体としての市町村を取り巻く
状況は、より厳しさを増している。       
 各地域においては、市町村合併の可否を含め十分
な議論を尽くし、その上で、独自の地域づくりをめ
ざす市町村のあり方について、地域の実情に即し、
地域が様々な工夫や広域的な連携などによって行政
サービスを提供していく「自律」しうる自治体を確
立していく必要がある。"           
というものです。               
 この行政哲学を基礎に置いて、4町村について 
「自治体経営の基本的姿勢」、「独自の取り組み」、
「行財政運営の将来シミュレーション」のケースス
タディを行ったものですが、いずれも厳しい財政見
通しながら、「自律」を目指した独自のまちづくり
に対する熱い思いが伝わって来ます。      
 この研究チームのまとめの言葉を要約すれば、 
 "このケーススタディにおける活発なディスカッ
ションを通じて、各町村の地域に対する強い愛着と
「自律」への思いを感じた。市町村は異なる条件の
中で、創意と工夫による自治を真摯に実践しており、
自治の現場は実に多様である。自治体のあり方につ
いて議論する際には、まず多様な自治の現場を知り、
それぞれの思いを十分に汲まなければならない。 
 「自律」への道は決して平坦ではないが、自分の
手で地域の明日を拓く気概と小さな取り組みをひと
つずつ積み重ねていく努力から、「自律」への道は
始まるものと信ずる。"            
というもので、「住民自治」への熱い取り組みを提
言しています。                
「農村における地域づくり―地域自立への課題―」
講師 東京大学大学院 助教授(農学博士) 
              小田切徳美  氏
 小田切氏は大学で教鞭を執る傍ら、一年の半分位
は地方の農山村に行き、そこの地域づくりに携わっ
ている人です。                
 先ず、農山村を巡る21世紀の大きな変化として、
@大学教育の現場から見ても、工業化社会から生命
社会へと学生の流れが変わって来ている。A農業政
策についても「地域の実情に応じた自治体農政・地
域別農政」の重要度が急速に増して来ている。B画
一的な平野部から多様な要素を持つ農山村地域への
関心が高まって来ている。という三つの流れがあり、
またこれらの流れが合流して大きな流れになりつつ
ある、という話がありました。         
 続いて、実例を上げながら最近の農山村での地域
づくりの話があり、例えば人材不足に対応するため、
広島県神石町では町内の一部地域の自治の支援とマ
ネージメントを担当する「村長」さんを月給10万
円、支援センター(小学校を改造)内無料居住可、
必要な業務時間以外は自由、という条件で全国公募
した結果多数の応募者があり、一次面接、二次面接
の後極めて優秀な人材を得た、という話は興味深い
ものでした。                 
 一般に「住民自治」は都市部の方が遅れているが、
松川町でも、合併するしないに関わらず先ず「住民
自治」の確立こそ最重要課題で、結果としての合併
が言える条件を作るべきだ、との提言がありました。
                       
おわりに                 
 この地方でもやはり地方交付税が将来減額される
ということと、合併特例法によるアメが動機付けと
なって、合併問題の動きが活発になっています。 
 しかし、合併するしないに関わらず、またどのよ
うな形で合併するにしても、これからの基本は「住
民自治」をどう確立し定着させるかということです。
 私は今回のフォーラムや関係者の話を通して、予
想以上に「住民自治」の動きが活発になっていると
いう印象を受けました。            
 ただ、自分で自分のことをやろうというのに、一
体財源がどの位有るのかはっきりしないというのが
実状です。お金の収支がはっきりわからない状態で
企業経営、家庭経営をやろうということと同じで、
甚だ不確実性の高い「住民自治」議論をしているよ
うに思えます。                
 これは地方の責任ではなく、国がどれ程の税財源
を地方に移譲するのかということと、その時の国と
地方との関係をどうするのかを明示していない為で
すが、そのことを国に強く迫っていこうという気運
は感じられません。今回の南信州の町村の中にも、
国の動向をよく見てから結論を出そうというところ
もあり、地方分権一括法で国と地方は対等の立場に
なったとはいえ、未だ従来の上下関係の気質から抜
け切れていないようです。           
 ただ幸いなことに「住民自治」の動きは確実に高
まって来ているので、この動きが必ずや地方の力と
なり、大きな世論となり、大きく国を動かすものと
信じています。                
 また、この地方は地理的、文化的、経済的に極め
て多様なところなので、ここがどういう形で決着す
るか、住民がどういう選択をするかということは、
全国の一つの好例になると思います。      
 これからも引き続きこの地方の動きから目を離さ
ないでおきたいと思っています。        

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