生活者主権の会生活者通信2003年05月号/02頁..........作成:2003年05月09日/杉原健児

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南信州の「住民自治」を訪ねて(1)

渋谷区 岡部俊雄

はじめに
 当生活者主権の会と、当会から発展的に独立した
道州制推進連盟は、目下道州制の実現推進を重要テ
ーマとして取り組んでおり、私もそれらの活動に参
加しております。               
 道州制を始めとしてどんな地方主権国家が形とし
て実現したとしても、それが期待通りの成果を上げ
る為の基本は、住民の住民による住民のための「住
民自治」がしっかり確立され、定着することだと思
います。                   
 「住民自治」が未確立のまま地方主権が形として
実行に移されれば、政治が住民に近づくというメリ
ットはあるものの、中央官僚の権限が地方官僚に移
るだけで、地方官僚の肥大化を招きかねません。 
 逆に「住民自治」の気運が高まることは、例えそ
れが合併しない宣言につながるものであっても、真
の地方主権を確立する原動力になるものだと思って
おります。                  
 私がこういう活動をしている事を知っている信州
のかつての職場の友人から、3月23日(日)に南
信州松川町で「町民が主役まちづくりフォーラム 
―地域の自立をめざしてー」が開催されるという連
絡がありました。そこで久しぶりに南信州を訪れ、
彼らの新しい自治の動きを見てみることにしました。
 南信州は新宿から中央高速バスで約4時間かかり
ます。途中日本の高速道路標高最高地点(1,05
0m)というところを通りますが、その付近の北斜
面はお彼岸だというのに未だ残雪に覆われていまし
たし、中央アルプスも南アルプスも冬景色のままで
した。                    
 そもそも信州というところは、日本で4番目とい
う広大な面積を持ちながら、山、川、谷で細かく分
断されており、分断されたそれぞれの集落が、独自
の文化を育み、環境の変化に順応しながら今日迄連
綿と生活を続けて来ているという所です。    
 そういう地方にも当然のことながら今回の「平成
の大合併」の嵐が吹き荒れています。地形的にも文
化的にも一体感の少ないこういう地方は、一言で合
併と言っても、都市部、特に大関東平野に位置し、
地形的にも文化的にも境界感のない地域とは事情や
感覚が全く違っています。その上彼らは名うての議
論好きの県民であり、それに田中知事が車座集会な
どで火つけ役をしています。          
 さて彼らはどんな動きをしているのでしょうか。

南信州広域連合事務局長 田辺陸海氏との話と
合併の動き                
南信州広域連合の動き           
 南信州広域連合は平成6年の地方自治法改正で、
特別地方公共団体として「広域連合」制度が創設さ
れたのを受け、長野県ではいち早く全県をくまなく
網羅する10の広域連合を作りましたが、その一つ
として県の最南端の1市17町村の連合体として設
置されたものです。              
 広域連合は一部事務組合に比べより独自性が強く、
複合事務を処理でき、制度的には執行機関と議会が
あります。また、その長や議員は直接選挙や間接選
挙で選ばれる他、住民には執行機関のリコールや議
会の解散などの直接請求も認められているというも
ので、基礎自治体の広域化・効率化をねらった、相
応の実績を上げつつある組織体です。      
 ところが、今この広域連合を発展させようという
動きを吹っ飛ばして、いきなりこの広域連合1市1
7町村(飯田市、下伊那郡)を全て合併しようかと
いう検討が始まり、その検討事務局が皮肉なことに
この広域連合の事務局になっているのです。   
 事務局長の話では、利害、環境、文化の違う多く
の地区を合併させるという困難にいきなり手を付け
るよりは、今の広域連合を発展させれば、目的とし
ているものは十分に得ることができると思うが、総
務省の今の方針が「広域連合の発展と市町村合併は
両立させない。今は市町村合併でいく。」というこ
となので、その方向で検討を進めているということ
でした。                   
 さて、合併の検討状況ですが、同広域連合が行っ
た平成14年4月の第一次検討結果では、年々財政
が厳しくなってきている小さな町村は生き残りが困
難であり、且つ17町村を北、南、西の三つのブロ
ックに分けて合併したとしてもなお、厳しさは変わ
らないという結論になったため、平成14年12月
に第二次の検討を行いました。         
 第二次の検討は運営の可能性のある1市17町村
を平成16年に合併させることを前提とし、今回の
合併特例措置が終了して通常の財政規模に戻った時
点(平成32年)でどうなるかを検討しています。
 それによると、地方交付税が現状ベースを維持で
きたとしても、平成32年で5億円の赤字になり、
現状の70%に減額されれば90億円の赤字になる
見通しとなりました。             
 この見通しを踏まえて、同広域連合は大きく三つ
のことを提言しています。           
 一つは、「住民自治」を基本とし行政は補完性の
原理に基づいて行政でしか出来ないことのみを担う
という考え方ですが、この広大な面積(1,929
平方km、東京都:2,102平方km)に多様な
文化が存在するということから、この新しい「住民
自治」の仕組みとして「地域自治政府」とそれを支
える新たな地方行政(市役所)の体制を提案してい
ます。                    
 この「地域自治政府」の考え方は総務省でも注目
され、全国紙でも報道されていますが、概ね旧町村
単位に設置され、市から財源配分を受けて、その地
域の実情に適した事業を執行するというものです。
 二つ目は、職員と行政サービスのスリム化。  
 三つ目は、都市機能と田舎暮らしの双方を享受で
き、域産域消を基本とした地域の活性化というもの
です。                    
                       
各市町村の動き           
 この提案を受けて各市町村が一斉に動き出しまし
たが、予想通りそれぞれの事情の違いから色々な見
解が出てきました。1市17町村といっても、この
地域ではあたかもガリバーとこびとたちという構図
で、人口で見ても17町村が束になっても71,3
96人で1市106,161人の67%しかいませ
ん。                     
 そこで17町村が最も気にしていたのはガリバー
である飯田市の見解ですが、それが3月3日に「基
本は1郡1市の合併を目指すべきだが、自立を目指
す町村に強制はしない。」と表明されました。  
 各町村はそれを受け、更に具体的な検討に入って
おり、目下積極派、近隣合併優先派、自立志向派に
分かれています。例えば、長年かけて住民自治を築
いてきた努力を簡単に否定できない、自立の道を先
ず第一に考えたいという町や、既に行政機構を徹底
的にスリム化しており、交付税が最大35.4%減
額されても十分存続可能であると、自立の方向を強
く打ち出している村や、ブロック単位の合併の方向
で考えたいという村や、特例法期限内で1郡1市で
合併するのが最良だという村など色々で、具体的な
合併交渉が進む気配が見える半面、現実の困難さも
浮き彫りになり、なかなか足並みは揃っていません。
 しかし、いずれも広域連合の検討結果を真摯に受
け止めており、「住民自治」を基本とした地域再生
の形を模索しているようです。         
                       
松川町議会議員 米山由子氏及び友人との話から
 松川町(14,482人、73平方km)は下伊
那郡の北部のブロックに属し飯田市に次ぐ人口を擁
しています。                 
 1郡1市の合併に対しては町としては積極的に検
討するという方向のようですが、地理的にも文化的
にも共通点の多い北部ブロックの合併を先行した方
がよいという意見も強く、また合併しないで自立し
ようという動きも出てきているようです。    
 今回の主題のフォーラムはその自立を指向するグ
ループが企画したものだそうです。       
 ただ住民の大多数はこの不況で自分の会社や仕事
のことで頭が一杯で、時間的な余裕もなく、合併と
か「住民自治」とか、ましてや道州制といった事は
自分達が考えることではなく、行政のことは今まで
通り役所がしっかりやってくれるものだと考えてい
る人が多いようです。             
 私の友人も私がこういう活動をやっていることで
その感化を受けたのか、今では忙しい仕事の傍らこ
ういうことにも関心を持つようになったが、そうで
なかったら今まで通りお役所まかせだったかも知れ
ない、と言っていました。           
 ただ、国の財政が危機的状態であるとか、それが
自分達国民にどう関係するのか、もう一つピンと来
ない。ということでしたので、         
 “現在日本は国と地方合わせて700兆円の借金
が有り、特殊法人の借金300兆円と合わせると1
,000兆円の借金となり、日本国債の格付けはア
フリカのボツワナ以下になっている。一方国民の金
融資産は1,400兆円有るが、借金が400兆円
有るので差し引き1,000兆円。従って、国と国
民とを合わせると、日本国は国土だけが有り、国民
がいるというだけで無一文ということになる。  
 この1,000兆円という借金は、いずれ国民の
税金で返済しなければならない訳だが、その方法と
して、現在国債・地方債を持っている個人・法人は
それを全部焼却し、借金の棒引きをすると同時に、
国民全員から300万円を特別税として徴収する、
又は、国民全員から1,000万円を特別税として
徴収し、1,000万円の手持ちの無い人は、その
人の責任で借金し、返済してもらう。      
 という法案が国会に上程されるとすれば、少しは
ピンと来るのではないか。”          
と話しましたら、そういう分かり易い話は始めて聞
いた。政府に都合の悪い話かもしれないが、政府は
もっと分かり易く国民に知らせるべきだ。と言って
いました。                  
 米山議員は道州制の目的や概要をよく御存知のよ
うで、今後資料の交換をすることにしました。   
                  (つづく)

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