生活者主権の会生活者通信2002年12月号/10頁..........作成:2002年12月20日/杉原健児

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外務省はどこまで病んでいるのか?

共同通信社メディア局編集部記者 小黒 純

 小黒さんとは、四谷の情報公開市民センターが進
めているトランスペアレンシーインターナショナル
の活動の中で知り合うことができました。外務省の
事件は、今の行政機構全体にわたる共通の病巣を象
徴的に描き出していると思います。そういう意味か
らも今回の出版は非常に意義があると思います。私
も、岩波書店で購入させて頂きました。今後、ご希
望があれば、小黒さんによる講演も開催可能と伺い
ましたのでご意見をお寄せください。(岡戸知裕)

      <小黒純著・書籍紹介>  
 書名『検証・病める外務省−不正と隠蔽の構造』
  発行所:岩波書店/価格:1800円(税別)  
 「『病める外務省』というタイトルだったら、治
療が可能なように聞こえる」。外務省問題を一緒に
追及し続けた友人が、皮肉を込めて言った。「外務
省の実態を言い表すなら、『腐朽の外務省』にすべ
きだろう」。                 
 それほど外務省は腐り果てている。3分の2の課
が計2億円を超える裏金をため込んでいたプール金
問題、大使館や領事館における公金流用、松尾元室
長が十億円を超える機密費を手にした事件……。次
から次へと事件や疑惑が発覚した。       
 このうちプール金問題では、この原稿を執筆して
いる最中に、会計検査院の調べによると、裏金の総
額が三億四千万円に上ることが明らかになったとい
う報道(読売新聞 11月6日付夕刊)が飛び込ん
できた。外務省が独自で調べた金額より、実際は 
一・五倍も多かったことになる。自らため込んだ裏
金の額さえ、正確につかんでない。なんたるいい加
減さだろうか。                
 こういう組織に対し、メディアは監視を続けなけ
ればならない。しかし、外務省詰めの記者はほとん
どが1年たらずで交代してしまうのが実情だ。  
 一連の不祥事を、最前線で取材していた誰かが、
きちんとフォローしておかなければ、未解決の案件
が闇に葬り去れてしまう……。そのうち、国会も取
り上げなくなり、国民も忘れてしまう……。これだ
けの不正を生んだ土壌と、組織の根っ子に張る隠蔽
体質について、書き残しておかなければならない、
というのが執筆の動機だった。         
 2001年春から共同通信社社会部記者として、
外務省を取材した私は、情報公開法を駆使して入手
した内部文書もまじえながら、外務省の不祥事を掘
り下げ、検証した書き下ろした。        
 不祥事の一つに、第4章で取り上げたデンバー総
領事による公金の流用がある。当初から懲戒免職処
分となった総領事について、外務省が捜査当局に告
訴、告発するのかどうかが問われていた。調査結果
と処分の発表から一年を過ぎ、本書の出版に合わせ
るかのように、外務省はようやく警視庁に告訴した。
その間、記者会見や国会で、外務省はこの件の取り
扱いについて、再三にわたって質問を受けた。こう
した追及がなければ、おそらく外務省はそのままに
したのではないか。              
 事実を隠し、身内をかばい、組織を守り、一般市
民が忘れるのを待つかのように、ほったらかす。外
務省は不祥事が発覚するたびに、こうした態度をと
り続けた。川口順子外相は、外務省改革のキーワー
ドとして「透明性」「スピード」「実効性」を挙げ
ているが、いずれの看板も外した方がよい。   
 本書では、記者会見における外務官僚と記者との
はげしいやりとり、国会での論戦、外務省の内部文
書などを突き合わせ、事実に基づく検証を試みた。
 また、情報公開法を取材のツールとして活用し、
100件を超える文書開示請求で公開された内部文
書を分析し、可能な限り読み解いた。情報公開制度
がどれほど権力チェックに有効か、実感できるので
はないか。                  
 巻末の資料には、独自に作成した各不祥事の「処
分者一覧」も掲載した。処分を受けても幹部は次々
に大使などに昇進していくのが、反省なき外務省の
一断面だ。「不正と隠蔽の構造」は一向に変わって
いない、その体質は温存されていることを忘れては
ならない、というメッセージを込めたつもりである。

生活者主権の会生活者通信2002年12月号/10頁