生活者主権の会生活者通信2002年04月号/06頁..........作成:2002年04月11日/杉原健児

全面拡大表示

尾崎行雄翁の廃国置州論(1)

文京区 松井孝司(tmatsui@jca.apc.org)

  憲政の神様、尾崎行雄翁は若い時代には「尚武論」
や「支那征服論」を唱える強硬論者であったが、第
1次世界大戦後欧米諸国の実情をつぶさに視察し、
「国家のためといわれてだまされて、結局、国家を
も人類をも亡ぼすものであるのに、あんな破壊をや
るというのは人間というものは実にあきれた馬鹿な
ものだ」と悟り、国家主義を排し「廃国置州論」を
主張するようになった。                        
  尾崎翁の廃国置州という考えは世界連邦構想で、
敵対していた各藩が一体となってしまった廃藩置県
と「同じことを世界に行いたい」というもので、米
国合衆国を世界連邦成立の可能性を実証する絶好無
類の事例としている。北米は国家を連合して1つに
したのに、南米は同じ白色人種の国でありながら政
治組織が乱れ、北米と大変な格差が生じてしまった。
  今日もし尾崎翁が生きておればEUも成功事例に
挙げることだろう。廃国置州論は国境を無くし地域
統合の必要性を主張するもので、日本を1つの州と
し他国と連合政府を作れという主張である。国体の
存続を重視した戦前の日本人にとって廃国論はあま
りにも非常識な空理空論と捉えられたためか、この
尾崎翁のこの主張は殆ど無視されてきた。        
  尾崎翁の「自由主義者」としての業績は日本より
米国で評価されていたようで、戦争が終盤に近づい
た1945年の7、8月頃米軍は東京や名古屋の上
空でB29から「日本の偉人よ何処に在りや」と題
するビラをまいた。ビラには「日本は自由の何たる
かを理解した人々によって強大を致したのである。
『国家の独立はその国民の独立より。』と喝破した
福沢諭吉氏。〜多年議会政治の闘士として令名を馳
せた尾崎行雄氏。刺客に襲われた時『板垣死すとも
自由は死せず。』と絶叫した板垣退助氏。この人達
によって昔の日本には『自由の国家のみがその強大
を致し得る。』と云う事実がよく理解されていた。」
と書かれていたが、当時の警察は必死になってビラ
を集め、一般の人達は咎められるのを恐れて手元に
おくことをしなかったそうである。戦時日本に誕生
した大政翼賛会は「自由は国を滅ぼす」と主張した
が、歴史は逆に「自由が無い国は自滅する」ことを
実証した。国民に規制を加え、自由を束縛するだけ
の政府なら無い方が良い。政府に求められる役割は
何であろうか?                           
  外交こそ国家に不可欠の機能とされてきたが、田
中真紀子氏が火をつけ炙り出された外務官僚の無責
任振りと外務省の税金無駄遣いの実態を知り、尾崎
翁や民間人の外交実績を知ると改めて「廃国=外務
省無用」論を検討する価値があると思うようになっ
た。                                     
  尾崎翁が米国ワシントンのポトマック河畔に桜の
木を贈ったことは有名である。「日米友好のシンボ
ル」とされているが、「日本の心を売った」と非難
されることもあった。これは日露戦争の講和条約締
結に際して米国が日本に示した厚意に謝意を表明す
るためであったが、日本政府が贈ったものではない。
尾崎翁が中央政界から干され、東京市長をしていた
ときに米国在住の高峰譲吉氏から資金提供を受け実
現したものである。日露戦争が勃発したとき金子堅
太郎氏が米国に派遣されたが、高峰氏は「無冠の大
使」として金子氏を支え、戦時公債を募るときは自
費を投じて演説会を開いた。また、高峰氏はニュー
ヨーク近郊に壮麗な邸宅を構え、自宅を領事館のよ
うに使って、米国の有力者を招いて日本に対する誤
解を解き、日本から渡米する人を助けた。日米親善
に尽力した高峰氏の逝去は多くの人に悲しみを与え、
ニューヨーク・タイムス、ニューヨーク・ヘラルド
など有力紙は、その偉業をこぞって賞賛したが、同
氏の死後、外交は政府の独占するところとなり、日
米関係は急速に悪化し、戦争に突入してしまった。
外交を一部の人間や国家に独占させることは弊害が
大きいことがわかる。                     
  尾崎翁の世界連邦構想は教育による人間性改革と
国家主義の撲滅に主眼を置き、戦争防止のための制
度と道義を確立しようとするものであった。「個人
の生命と財産と自由」を尊重する世界中央政府を創
設して権限を委任するが、同政府は国際紛争の予防
と裁決だけを担当し、その権限は極めて限定された
ものとしている。
               (次頁へつづく) 

生活者主権の会生活者通信2002年04月号/06頁