生活者主権の会生活者通信2001年11月号/11頁..........作成:2001年12月22日/杉原健児

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パラサイトから逃れよう(2)

豊島区 板橋光紀
  海外進出の相談を受ける際、耳にする企業側の挙
げる進出の「動機」にはいくつかの共通点がある。
1.日本の法人税が高く、土地が高い。          
2.役所の干渉が煩わしく大きな負担となる。    
3.インフラの整備は結構だが、コストが高くつく。
4.人件費が高くて競争力が弱くなる。          
  私は日本の企業運営を妨げるこれら4要素の多く
が改善されれば、海外へ出ていった工場の多くが日
本へ戻ってくると考えている。20,000軒の工場のう
ち半数位の工場が撤退を視野に入れているようだが、
仮に20%に当たる4000軒でも戻ってくれば、1軒あ
たりの従業員数が20000 人とすると、 800万人の雇
用創出が日本に生ずる可能性があり、大半の失業者
が救われる。人手不足状態が現出すると雇用のミス
マッチのほうも徐々にではあろうが、自然にアジャ
ストされてくると読んでいる。その理由を以下に挙
げる。                                        
1.日本に見切りをつけて海外へ工場を進出させた
  企業の殆どが元気の良い有力な企業であると言っ
  て良い.会社が衰弱したり、理不尽なことを強要
  する管理職が居たりすると、掛け替えのない優秀
  な人材から先に退職してしまい、他社へ移籍しよ
  うのない重荷社員ほど退職せずに居座りつづける
  傾向にあるのに似ている。海外での操業は少品目
  で大量生産とニ交代、三交代によるフル操業を前
  提としなければそのメリットを満足に亨受出来な
  い。今のように世界同時不況になると、多品種少
  量生産が要求され、言葉の違いやインフラの未発
  達等多くのハンディキャップから、品質管理や資
  材調達等に於ける煩雑な運営が難しくなり、日本
  で生産したほうがむしろ安上がりになって来る。
2.海外へ出ていく企業の動機に、受け入国の優遇
  税制を魅力の一つに挙げているところが多い。ス
  タートしてから数年間法人税を免除するとか、低
  税率を摘用する等の措置である。これは受け入国
  が、企業から法人税を取り立てて歳入を増やすこ
  とよりも、自国の工業水準を引き上げることや、
  雇用を増加させることを優先させるほうが得策と
  考えることによる。しかし多くの国々ではこれら
  の優遇期間が満了してしまったり、必要以上に立
  派に仕上げてしまった工業団地や道路整備等への
  支出から、国や自治体の財政を圧迫し、逆に新税
  が課せられたり、各自治体が勝手にローカルルー
  ルを制定、借地料の値上げ等の負担を強いて来る
  ケースも出て来た。中国では自治体が至れり尽せ
  りの工業団地を完成させたにもかかわらず、入居
  希望者が少なかったり、一旦入居した工場が出て
  いってしまう等の例さえある。北海道の苫東開発
  で、広大な工業団地が完成してから何年も経って
  いるにも拘らず、今だに16%しか利用されてい
  ない日本の現状に似ている.「役所のやりすぎ」
  は民間にとってあまり有難くはないのだ。      
3.中国では資本主義化が進展するにつれ、赤字国
  営企業の民営化と、「小さな政府」を進める必要
  に迫られてきた。必然的に中高年の失業者が大量
  に発生して参り、どこで教わってきたか知らない
  が、「天下り」を進出企業に押し付ける習慣にな
  って来ている。企業に貢献できそうな人材ならと
  もかく、役所の認可を取り付ける引き替えに高官
  のドラ息子を引き取らねばならなかったり、しか
  迎えて欲しい」等の条件を付けられたり、うんざ
  りさせられることが多い。私は日本の進出企業か
  らこの種の悩み事の相談を受けた場合、どうせ引
  き取らねばならないなら、警察、出来れば秘密警
  察の職員を天下りとして受け入れるよう勧めてい
  る。彼達は概して高官達の弱みを握っており、木
  端役人の「たかり」を撃退する番犬役位は務まる
  からだ。                                    
4.「人件費が安い」事を最大のメリットとして中
  国へ進出してきた日本の工場が多い。平均して日
  本の二十分の一と言われる中国の賃金水準は、確
  かに製造コストを下げる要因の                
  重要なファクターの一つではあろうが、こんな筈
  ではなかったと後悔しているところが多い。原材
  料費が極く僅かで、人件費の塊のようなペルシャ
  の絨毯みたいな商品を作るなら別だが、一般の電
  気製品や雑貨類の場合、原材料費が大半を占め、
  コストに占める人件費はほんの一部であり、それ
  が二十分の一になったところで驚くほど安く作れ
  るわけではない。工員の賃金が安い代わりに、工
  場を大きくすればするほど、独身の工員全員に独
  身寮と三度の食事を与え、浴場やクリニック等も
  設置する。家族持ちの職員を抱えれば家族寮の他
  に託児所、場合によっては保育園から小学校まで
  工場の敷地内に建てる必要に迫られる。        
  中国のWTOへの加盟は本決まりになりそうだ。
これからは,色々な点でグローバルスタンダードに
合わせる必要にせまられ、生産コストが上昇してく
る。遅れ馳せながら役所は環境保護にも乗り出して
きた。これまでは汚水の垂れ流しが許されてきたの
だが、今になって急に浄化装置を作らないなら「直
ちに操業を止めよ」とくる。環境を錦の御旗に掲げ
られてはイヤとは言えない。                    
  日本の国防予算5兆円の中身は高価な戦闘機やイ
ージス艦をたくさん買っているにも拘らず、70%の
 3.5兆円が自衛隊員と防衛庁職員35万人の人件費で
占める。国家予算の80兆円も物品を購入する費用よ
りも、国や地方自治体の職員の給料、ボーナス、公務員
住宅へ費やされる方が大きいわけだ。歳入が50兆円
しかない場合、その範囲で予算を組むことになれば
公務員を削減する以外に無く、痛みは公務員に降り
かかってくる。小泉さんは公務員の首切りを避ける
為に30兆円もの国債を出そうとしているとは言えな
いだろうか。言いかえると企業と一般市民は公務員
にパラサイトされていることになる。我々はパラサ
イトから逃れなければ体力は益々弱ってしまう。  
  このままだと日本は大財政赤字と多数の失業者を
抱えた不況が延々と続き、冬景色が過ぎ去る見通し
はない。その他方で20,000軒の海外進出工場に1軒
当たり2000人居れば、4000万人を雇用して、莫大な
税金と物品消費パワーを外国へ落としている図式は、
奇妙というより滑稽ですらある。進出企業はいずれ
もが外に出て他流試合を済ませてきたつわもの共で
ある。帰ってきた暁にはきっと日本経済を立て直す
先兵となってくれるに違いない。                
  私の海外進出コンサルタント業は役割を終え、舞
台から降りることになろう。しかしこれからは役柄
を新たにし、進出工場の損害を最少に押さえ、スム
ースに撤収させる舞台での「端役」がまわって来る
かもしれない。                                

生活者主権の会生活者通信2001年11月号/11頁