生活者主権の会生活者通信2001年11月号/10頁..........作成:2001年12月22日/杉原健児

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パラサイトから逃れよう(1)

豊島区 板橋光紀

  日本の完全失業率が5%に達したと言う。勤労者
総数は7000万人と言われているから、その5%とな
ると 350万人が失業していることになる。これから
不良債権の処理が進み、公共事業が大幅に削減され、
天下りが厳しく規制されて、企業の過剰雇用が是正
される時代になる訳だから、失業率は更にアップし
て、一説によると10%に届くこともあり得るようだ。
  しかしどんなに好景気で人手不足の時代にあって
も、日本には常に2%前後の失業者は存在するから、
為政者が当面の雇用問題を解決しようと試みるなら
ば、8%に当たる 560万人を救済することを目標に
して取組まねばならないだろう。 560万人の救済は
容易ではない。                                
  そもそも為政者が失業者を「救済」しようとする
発想が間違っている。為政者達の考えつく救済策と
はせいぜい                                    
1.補正予算を組んで公共事業をひねり出すこと…
  …しかしこれ以上国債の発行はできないから新事
  業は無理。                                  
2.雇用のミスマッチを是正する為に職業訓練を行
  うこと………やらないより良いかもしれないが、
  パソコン教室を開いたり、英会話の講習を修了さ
  せる程度のことでは、失業者にジーンズの上から
  モーニングを着せるようなもので、彼達が安定し
  た職に就けるとは思えない。                  
3.失業保険の給付期間を延長すること……収入を
  断たれた人々を短期間救済することにはなるだろ
  うが、失業者に職を与える根本的な問題解決には
  ならない、後向きの対策でしかない。          
4.雇用企業に補助金を出すこと……補助金に釣ら
  れて採用する優秀な企業経営者は多分居ない。  
    不景気を象徴する社会現象としては「失業」以
  外に「赤字」「業績低迷」「リストラ」「倒産」
  等多々あるが、「失業」だけは勤労者個人とその
  家族の生活に直接係る事態だけに問題はより深刻
  だ。しかし景気のアップダウンやそれらの社会現
  象は本来資本主義経済下では避けようのない景気
  サイクルの一過程であり、為政者の功績でもなけ
  れば失政でもない筈だ。水は常に高い所から低い
  所へ向かって流れるたとえの通り、役所や政治家
  が人為的に堰き止めたり、流れ落ちる水を高い方
  へ逆流させようと試みても、長続きはしないし、
  するべきではない。企業が衰弱したり倒産の危機
  に瀕するのは、市場原理のメカニズムから言えば、
  それらの企業が存続する意義が薄れたか、その時
  代に於ける役割を終えたものと解釈するべきで、
  市場経済の舞台から速やかに消えてくれたほうが
  周りの足手まといにならない。                
    それが不満な役者は観客に受け入れられる演技
  力を身につけた上、役柄を新たにして再登場する
  べきであろう。危機に瀕した企業や人材を救済す
  るか否か、リフレッシュした彼達を受け入れるか
  否かは国や自治体が予算を注ぎ込んでまでする仕
  事ではなく、観客、つまり市場または消費者が判
  断すべき事柄であろう。                      
    私は今の不況を景気サイクルで言う不況過程だ
  とは思わない。不況業種の代表格と呼ばれるゼネ
  コンの没落は公共事業とODAを利用した海外土
  建に売上の大きな部分を依存し過ぎたことと、本
  業からかけ離れた無謀な投機に走ったことが禍し
  ている。流通業界の不振は需要のパイの大きさを
  測る眼力を備えておらず、身の丈に合わない程店
  舗を拡張させてしまった読み違いと、仕入れ業務
  を疎かにして消費者の支持を失ったことだ。銀行
  が愚かであった点は「株」に資金運用手段の大き
  な部分を依存していたことと、貸し付け業務がお
  粗末であったことに尽きる。いずれも人為的なミ
  スから苦境に陥った、因果律上必然とも言うべき
  自業自得みたいなものだから、彼達に同情する気
  にはなれない。ましてやこれらの落伍者を再生さ
  せる為に公的資金を投入する等の人工的な救済を
  施す損失補填的行政には大反対だ。            
    これまで国や自治体は「経済」に口を出し過ぎ
  た。良かれと思ってしたつもりかもしれないが、
  「余計なおせっかい」というより、大きな予算を
  投入している割には施策の多くが「経済活動を阻
  害」してさえいる。乏しい財政事情下で国や自治
  体が莫大な予算を使うことなく今の窮状に歯止め
  を掛けるには「経済活動に関する諸制度の改善」
  しかない。法律やシステムを変える作業自体には
  大きな資金を必要としない。ボーダレスの時代だ
  から、日本だけが急速に好景気になるとは期待で
  きないが、少なくとも日本の失業者数を減らすこ
  とを目標にして以下の提案をしたい。          
1.法人税を大幅に下げること。                
    現行の法人税は普通法人(大企業)の場合2年
  前に改正されて少し低くなったものの、国税が30
  %で地方税が 10.87%、合計 40.87%となってい
  る。これを国税を0%にして地方税の 10.87%だ
  けとする。しかし地方税のパーセンテージは控え
  置いても良いし、50%アップにして 16.30%にす
  る等各自治体の裁量に委ねることとする。雇用の
  増加を優先させたり、過疎化を是正したい所はも
  っと低くしたって良い。中小法人の場合も国税2
  2%をゼロにして、地方税だけにしてしまう。国
  税をゼロにした場合国の歳入が減る可能性はある
  が、元々国の歳入に占める法人税の総額は2000年
  度ではたかだか10兆円足らず。今の税率を放って
  おいたところで、企業の決算見通しの下方修正が
  相ついでいる昨今、多分2001年以降の法人税歳入
  は5兆円か6兆円止まりに落ちてしまうだろう。
  この程度の歳入不足は特殊法人を半分つぶすだけ
  でも穴埋め出来る。ついでに印紙も廃止、土地保
  有税、揮発油税も半分以下にして経済活動に掛か
  る費用を片っ端から落とす工夫をすべきだ。つま
  り「タックスヘブン環境」を作り出す必要がある。
2.公務員及び公益法人と特殊法人等の準公務員の
  天下りを厳しく規制すること。                
    役所が世話をして民間企業へ天下りを押し付け
  ることを禁止。そして民間企業が免許や各種優遇
  措置取得等の見返りに役所へ天下りを要請する行
  為を禁止する。これはコストダウンにつながる。
3.役所の免許制度を極力取り外し、経済活動に多
  くの煩雑な手続きを必要としないシステムに変え
  る。ただし安全を確保する為の基準を守らなかっ
  たり、談合等のアンフェアな行為を犯した場合の
  量刑を大幅に引き上げる。これは公務員と準公務
  員の削減につながる。公務員の数を10年間掛けて
  半減させるため、新規採用を極力押さえる。    
  私は過去20年間企業の工場等を海外へ移転させる
手助けをすることを仕事の一つとして来た。私が手
掛けたテーマは20件ほどでしかないが、中国を筆頭
に東南アジア等へ進出した日本の工場は合計20,000
件にのぼると言う。つまり私は日本を空洞化させた
張本人の一人ということになる。                

生活者主権の会生活者通信2001年11月号/10頁