生活者主権の会生活者通信2001年07月号/09頁..........作成:2001年月日/杉原健児

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人類の英知が問われる世紀
〜繁栄か、破滅か、21世紀の4大テーマ〜(4)

大田区 江川 朗

【4.民族と宗教の暴走化とその克服】
  二十世紀中に人類は、第一次、第二次と二回の世
界大戦を経験し、局地的な紛争や暴動は数えられな
いほどだった。中東やアフリカの紛争は世紀をまた
いで二十一世紀に持ち越される状況である。      
  これらの戦争、紛争の原因は複雑であるが、その
根源には、民族や宗教の「排他的自己主張」という
「エゴイズム」が根強く支配していることが認めら
れる。領地、資源、各種の利権争いが、民族と宗教
の論理というベールを覆って、結局は血で血を洗う
際限ない争いを延々と繰り返す。                
  二十一世紀には、民族、宗教が「国家」という一
層見えにくいベールをまとって他国の制御、干渉を
排除する行動を強めるかもしれない。科学技術の無
政府化は、小国においても原爆、科学兵器、細菌兵
器等の大量破壊手段を保有する可能性を増大させて
いる。いわんや、数千万人から億単位の人口を有す
る国々が原子力を手中にしつつある状況は、一歩誤
れば地球上を放射能汚染で覆いつくす第三次世界大
戦が二十一世紀に勃発するかもしれない可能性を示
しているのである。                            
  国家ないし地域が、多民族、多宗教による民主的
合意で運営されている場合は、紛争は起こらないか
小規模でとどまるだろう。しかし、ある宗教や民族
が、他の宗教や民族を権力や武力によって抑圧して
その主張を貫こうとすれば、そこには国家主義、ネ
オ・ファシズムが出現することになり、そうした  
「国家」がぶつかり合うことになれば悲惨な結果を
回避することは困難になる。                    
  歴史を辿れば、現在世界的に「暴走化」している
イスラム原理主義だけでなく、キリスト教の旗印に
よって過去にどれだけの戦争や殺人が行われたかを
考えれば、民族、宗教の暴走が危険極まりないこと
が理解できよう。                              
  それぞれの宗教、民族、そして国家の指導者達が、
英知をもって二十一世紀を話し合いと調整、妥協に
よる平和の時代とすることができるか。また人類の
英知による国際的機関、国際的秩序を生み出すこと
ができるか。もしこうした可能性が薄れれば、二十
一世紀は人類にとって期待できる世紀にはならない
だろう。                                      
                                              
  二十一世紀を展望すると、極めて多くの課題を数
え上げることができる。かつて私が主催した二十一
世紀研究会では、世界と日本にかかわる問題として、
人口問題、環境問題、資源問題、食料問題、科学・
技術問題、政治・行政・経済問題、社会・企業・教
育問題、倫理・道徳問題、さらには国際問題まで百
項目以上が二十一世紀の課題として抽出された。  
  そのうちのどれ一つを見ても、悲観的に考えると
二十一世紀中に解決するどころか、一層の泥沼に落
ち込むかもしれない課題だと思われた。そうしてリ
スト化された全ての課題をなす二十一世紀の根源的
課題は何なのかを論議のうえで私が絞りこんだのが、
ここに提起した四つのテーマなのである。        
  こうした二十一世紀のテーマの絞り込みは、他の
方々、例えば経済人、学者、官僚等が行っているよ
うだが、私の知っている範囲では、そのほとんどが
二十一世紀初頭まで(2030年頃まで)の問題展
望に限られているように見える。                
  しかし私見では、二十一世紀を左右する根源的課
題とそれにともなう世界や日本の動きは、2030
年以降に顕著に現れるのではないかと考えられる。
なぜなら2030年頃までは、現状でもかなり見通
しが可能であるし、現状レベルの人類の英知、理性
の範囲でも、世界の破局は免れる確率が高いからで
ある。                                        
  本稿では、紙数の制約から「日本の課題」につい
ては細部的言及はしなかった。日本が二十世紀末か
ら二十一世紀初頭に解決を迫られる諸問題、例えば、
年間GDPを超えた財政赤字の累積、急速な高齢化
と出生率低下による人口の減少、さまざまな環境汚
染や廃棄物の問題、それにも増して、「国際水準」
からますますとり残されている政治、行政、経済、
教育等の状況を見ると、もしかすると日本は二十一
世紀の三○年頃までに、衰退国化してしまうかもし
れないと思う。                                
  そうした日本の前途は、もっぱらこれからの日本
を担う若い人たちの英知にかかっているのだが、若
い人たちの行動や考え方に接するほど、「本当に大
丈夫なのかな」と考えこまざるを得ないのは、私の
思い過ごしか、余りに年齢を重ね過ぎて時代離れし
てしまったためかもしれない。ともあれ、二十一世
紀は、世界的に人類の英知が試される時代となるこ
とは間違いない。                              
  感性社会を否定はしないが、一方でもっと英知、
理性を高める教育が切望されるのである。        
      (「海洋」2001.1.1 No820号より転載・完)

生活者主権の会生活者通信2001年07月号/09頁