【3.科学技術の無政府化とその克服】
学問や技術には、本来、国境は存在しない。どこ
の国の発明でも、特許等で保護されている部分を除
けば、国籍も存在しないと考えられる。つまり科学
技術は本来、無国籍だといえるが、この無国籍が、
二十世紀中にさらに進んで「無政府化」してしまっ
たのである。
学問(科学)の段階ではそれ自体、人類に被害を
与えたり、利益をもたらしたりはしない。しかし、
科学が技術化し、工業化したり、農業化、医療化等
へ進むにつれて、一方では資本主義の利潤追求の手
段にされたり、他方では科学技術者の名誉心、功名
心をあおりたて、科学技術が暴走を始める危険が生
まれる。この暴走は本質的には「無政府化」の方向
を辿る傾向が強いと考えられる。
過去の例では、科学技術者の意図や良心に関係な
く、原子力開発技術が原子爆弾を生み出し、広島や
長崎の悲劇を生み出した。最近では、主に電子工業
への貢献という形で大量に空気中に放出されたフロ
ンガスが、地球を取り巻く紫外線調整物質であるオ
ゾン層を破壊し、ガンの発生率を高めている。
とてつもない廃棄物による環境汚染やその焼却処
理によるダイオキシンの発生、発電とクルマを主な
発生源とするCO2 大量排出による地球温暖化現象
等々、科学の技術化、技術の工業化による環境問題
は、ほとんど全てがその解決を二十一世紀に「先送
り」されたが、これが二十一世紀に解消されるとい
|
う保障は何もない。
二十一世紀に発生するより深刻な課題は、多分広
義のバイオテクノロジーから出現するのではないか
と考えている。
遺伝子、染色体操作から生み出されたクローン羊
ドリー号(イギリス)以来、生命形成の根源に踏み
込んだバイオテクノロジー技術は、例えばクローン
人間を生み出すことも、動物に人間の遺伝子を組み
込むことも、さらには地球上にかつて存在しなかっ
た動植物を創り出すことも不可能ではなくなった。
こうした技術が無政府化すると、ある人間の意志
(指示)に従う大量の人間を生産することも可能に
なるし、防止、治療方法が見つからない生物兵器を
一大学、一研究機関といった小規模な組織が創り出
すことも可能になるだろう。
国連等の世界機構が、こうした科学技術の無政府
化による暴走を本当に制御することが可能なのだろ
うか。脳の機能を停止させた脳死状態の人間を生産
し、臓器移植用とする「新産業」さえ研究されてい
るといわれる。資本主義の願いである利潤追求と、
無政府化する科学技術が結びつきを強めるほど二十
一世紀は絶望的環境化へと進むのではないかと危惧
される。バイオテクノロジーは、神様の尻尾を人間
が踏んでしまったのではないのか。人類の行動に対
する理性、英知を全能の神は冷やかに見つめ、もし
制御できないときは、人類の滅亡という神の摂理が
働くことになるのかもしれない。 (つづく)
|