生活者主権の会生活者通信2001年06月号/07頁..........作成:2001年06月05日/杉原健児

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人類の英知が問われる世紀
〜繁栄か、破滅か、21世紀の4大テーマ〜(3)

大田区 江川 朗

    【3.科学技術の無政府化とその克服】      
  学問や技術には、本来、国境は存在しない。どこ
の国の発明でも、特許等で保護されている部分を除
けば、国籍も存在しないと考えられる。つまり科学
技術は本来、無国籍だといえるが、この無国籍が、
二十世紀中にさらに進んで「無政府化」してしまっ
たのである。                                  
  学問(科学)の段階ではそれ自体、人類に被害を
与えたり、利益をもたらしたりはしない。しかし、
科学が技術化し、工業化したり、農業化、医療化等
へ進むにつれて、一方では資本主義の利潤追求の手
段にされたり、他方では科学技術者の名誉心、功名
心をあおりたて、科学技術が暴走を始める危険が生
まれる。この暴走は本質的には「無政府化」の方向
を辿る傾向が強いと考えられる。                
  過去の例では、科学技術者の意図や良心に関係な
く、原子力開発技術が原子爆弾を生み出し、広島や
長崎の悲劇を生み出した。最近では、主に電子工業
への貢献という形で大量に空気中に放出されたフロ
ンガスが、地球を取り巻く紫外線調整物質であるオ
ゾン層を破壊し、ガンの発生率を高めている。    
  とてつもない廃棄物による環境汚染やその焼却処
理によるダイオキシンの発生、発電とクルマを主な
発生源とするCO2 大量排出による地球温暖化現象
等々、科学の技術化、技術の工業化による環境問題
は、ほとんど全てがその解決を二十一世紀に「先送
り」されたが、これが二十一世紀に解消されるとい
う保障は何もない。                            
  二十一世紀に発生するより深刻な課題は、多分広
義のバイオテクノロジーから出現するのではないか
と考えている。                                
  遺伝子、染色体操作から生み出されたクローン羊
ドリー号(イギリス)以来、生命形成の根源に踏み
込んだバイオテクノロジー技術は、例えばクローン
人間を生み出すことも、動物に人間の遺伝子を組み
込むことも、さらには地球上にかつて存在しなかっ
た動植物を創り出すことも不可能ではなくなった。
  こうした技術が無政府化すると、ある人間の意志
(指示)に従う大量の人間を生産することも可能に
なるし、防止、治療方法が見つからない生物兵器を
一大学、一研究機関といった小規模な組織が創り出
すことも可能になるだろう。                    
  国連等の世界機構が、こうした科学技術の無政府
化による暴走を本当に制御することが可能なのだろ
うか。脳の機能を停止させた脳死状態の人間を生産
し、臓器移植用とする「新産業」さえ研究されてい
るといわれる。資本主義の願いである利潤追求と、
無政府化する科学技術が結びつきを強めるほど二十
一世紀は絶望的環境化へと進むのではないかと危惧
される。バイオテクノロジーは、神様の尻尾を人間
が踏んでしまったのではないのか。人類の行動に対
する理性、英知を全能の神は冷やかに見つめ、もし
制御できないときは、人類の滅亡という神の摂理が
働くことになるのかもしれない。      (つづく)

生活者主権の会生活者通信2001年06月号/07頁