生活者主権の会生活者通信2001年05月号/10頁..........作成:2001年05月04日/杉原健児

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公会計が日本を救う (1)

杉並区(参議院選候補) 片山みつよ

  国や地方自治体の会計制度を公会計という。国会
や地方議会の決めた予算を忠実に執行することが求
められる公会計は、いわば家計簿のようなもので、
お金の出入りだけを記録する。税収も借金も、お金
が入ってくるのは歳入であり、市民ホールを建設す
るのもお役人の給料を払うのも、お金が出るのは歳
出である。このようにお金の出入りを追いかける会
計を現金主義会計という。お金の出入りだけを対象
とするので、単式簿記という手法を使う。        
  これに対して、民間企業が利用している企業会計
は、お金の出入りだけでなく、その原因をも記録す
る。お金が入ってくれば、それが売上金なのか借金
なのか、お金が出れば、それが工場を建てるためな
のか交際費の支出なのかも記録する。お金の動きと
その原因と、二つの面から見るのでこれを複式簿記
という。複式簿記は、お金が動かなくても記録する
ことがある。2ヶ月後に代金を受け取る条件で売っ
た場合、お金が入るのは2ヶ月先だが、売った時に
売上を計上し、その分売り先に債権を立てる。この
ように、お金が動いた時だけでなく取引が発生した
時に記録するのを発生主義と言う。              
  現金主義、単式簿記の公会計。その良さは簡単だ
ということである。ただ、お金の出入りしか記録し
ないから、後世に残す財産がいくらあるのか、借金
がいくらあるのかは分からない。一方、発生主義、
複式簿記の企業会計は、少し複雑だが、財産や借金
を正確に記録する。また、工場の設備が30年使える
ものなら、その建設に要した支出を30年にわたって
年ごとの費用に分け、毎年の費用を正確に計算する
こともできる。                                
  家計簿なら簡単な現金主義、単式簿記で十分であ
る。だが、いまどき市町村でも財政は何百億、何千
億円という、企業で言えば大企業の規模である。ま
してや国ともなれば、一般会計だけで82兆円に達
する。しかも、借金は国と地方を合わせて666 兆円
にも上る。これほどの規模の財政を扱うのに、家計
簿並の会計で良いのだろうかと言うのが、私たちの
取り組んでいる「公会計改革運動」の出発点である。
  特に、複式簿記の利点は財産や借金など財政状態
を一覧表にまとめて分かりやすく示すバランスシー
ト(貸借対照表)が作成できることである。お金の
動きだけしか追わない単式簿記ではバランスシート
は作れない。これまでの公会計では、会計の記録と
は別に、借金の残高や財産の明細を作っていたが、
一覧の形になっていないし、地方自治体の財産明細
は金額での表示はなく、土地が何平方メートル、グ
ラントピアノが何台という記録でしかない。私たち
の税金だけでは足りず、借金をして公共事業を行っ
てきた訳だが、借金を返すのは私たちの子供や孫た
ちである。彼等に残すのは借金だけでなく、公共事
業で造った建物や道路などの財産もある筈だ。財産
がいくら、借金がいくら、これをはっきりさせない
で次の世代に引き継ぐ訳には行かない。          
  こうした私たちの主張は先進的な地方自治体で受
け入れられ、運動を始めた3年前からバランスシー
トを作る地方自治体が増えてきた。最初は民間企業
の手法を導入することなど考えてもいないと言って
いた自治省(現総務省)も、地方自治体のバランス
シート作成の指針を提供するようになった。昨年は
ついに、不完全なものではあるが、国のバランスシ
ートも発表された。この進展を、私たちの運動の成
果だと自慢するつもりはない。破綻の危機に瀕して
いる国、地方自治体財政にとって、バランスシート
は当然必要とされるものであり、私たちの運動はそ
のきっかけになったにすぎない。                
  だが、こうして作られたバランスシートは、複式
簿記にもとづく本物のバランスシートではない。相
変わらず大福帳の単式簿記の記録をもとに、統計的
にデータを拾い出してバランスシートの形に組み立
てたものに過ぎない。これでは財産と借金を対比さ
せるのには役立っても、それ以上の効果はない。  
                                    (つづく)

書籍紹介:片山みつよ著『これからの公会計』(株)ぎょうせい刊

文京区 松井孝司

  本書は、生活者通信4月号(第68号)で民主党
の比例区参議院候補として推薦依頼のあった片山光
代さんの著作である。一家庭の主婦であった片山さ
んが町田市議となり、税理士としての経験をバック
に公会計改革に取り組むようになった経緯が述べら
れている。                                    
  歳入不足に苦しむ町田市での税の延滞金に関する
一般質問が契機となって、片山さんの猛勉強がはじ
まったようだ。                                
  現金主義とバランスシートが作れない単式簿記の
問題点と企業会計を公会計に取り入れるメリットを
解明するため、インターネットにアクセスしてニュ
ージランド大蔵省からデータを取りよせるだけでは
足りず、片山さんは所属する市議会会派にニュージ
ランド視察を提案し、直接現地に乗り込んだ。こう
して入手したニュージランドの公会計データも参考
資料として添付されている。                    
  国も地方も財政破綻は目前である。財政破綻を回
避するための第一歩が公会計改革であろう。実際に
国と自治体でバランスシート作成や外部監査の試み
が始まっている。なぜこれまでの公会計では不充分
なのか?公会計に企業で用いられ複式簿記や決算方
式を導入するとどのようなメリットがあるのか?具
体的な事例で解説されているので、行政改革・公会
計改革に関心を持たれる方には是非一読を勧めたい。
                            (定価2381円+税)

生活者主権の会生活者通信2001年05月号/10頁