「都道電柱ゼロ」の公約

 

東京都小平市 小俣 一郎

 

 テレビを見ていたら「首都直下地震による長期的な経済と資産の被害について土木学会は、6年前の推計を見直し、1001兆円にのぼるとする報告をまとめました」というニュースが飛び込んできた。そこで改めてNHKニュースウェブや土木学会のHP等で確認すると、3月14日に土木学会が2023年度「国土強靱化定量的脆弱性評価・報告書」の第一弾の報告書を公表し、会見したことがわかった。

そこには南海トラフ地震以外の巨大災害の被害推計がまとめられていて、首都直下地震によるその後20年間の経済と資産の被害については、6年前の推計を見直し、経済活動の低迷によるGDP=国内総生産の損失を示す「経済被害」が954兆円、被災した建物などの被害額を示す「資産被害」が47兆円で、合わせて1001兆円にのぼるとされた。新たに得られたデータをもとに見直しが行われ、223兆円多くなったとのことである。

そして21兆円以上を投じて道路や港湾などの公共インフラの対策を進めれば、経済被害を369兆円減らすことができるとし、被害を避けるための対策としては、道路網の整備や、緊急時の輸送路で電柱が倒れないよう地中に埋設する工事、橋や漁港、港湾の耐震化。建物の耐震化を進め、旧耐震基準を新耐震基準に強化することが挙げられていた。

非常に大きな数字だが、20191225日の投稿「パラレル東京」で紹介したNHKのドラマのようなことが現実になればやはりこのような数字になるのだろう。

では現在の対策はどのくらい進んでいるのだろうか、と考えたとき思わず浮かんできたのが、8年前の都知事選挙での「都道電柱ゼロ」の公約だった。今年7月には都知事選挙がある。そこで無電柱化についての都の取り組みを少し調べてみた。

2016年7月31日に行われた都知事選挙で当選した小池都知事は、翌年6月に「東京都無電柱化推進条例」を制定し、9月に条例を施行、また都道全線での電柱の新設を禁止した。そして2018年の3月には「東京都無電柱化計画」を策定して「今後10年の方針」等を決めて無電柱化を進めた。

2020年7月の2度目の都知事選挙の時点では、センター・コア・エリア(首都高・中央環状線内側の地域)の都道の地中化は95%達成されたようだが、2019年度末の地中化率は、区部で61%、多摩地区で20%、全体だと42%で、「都道電柱ゼロ」という観点からは高い評価を得ることはなかった。またこの選挙ではコロナ対策が最大の争点になったこともあり、選挙での大きな公約としては出てこなかった。

ただ、無電柱化の方針を放棄したわけではなく、20212月には「無電柱化加速度戦略」を策定して「電柱を減らす」「これ以上電柱を増やさない」「無電柱化の費用を減らす」の『無電柱化3原則』を定め、7つの戦略を打ち出し、2060年代までかかる見通しだった都道全域での地中化の完了時期の目標を2040年代とはした。そして2022年の5月には「東京都無電柱化計画」も改定し、また昨年の7月には「東京の無電柱化」という見やすい冊子も発行し啓蒙活動もしてはいるようである。

2022年度末の都道の地中化率は、区部で64%、多摩地区で22%、全体だと45%という状況だという。3年で3%改善している。これをどのように評価するか。

今年に入って関東でも地震が頻発している。7月の都知事選挙における各候補者の首都直下地震等の災害に対する公約に改めて注目したい。