“脱炭素”社会に向けて〜トリウム熔融塩炉の優位性

 

東京都東村山市 日笠山 泉

 

311日を迎え、東日本大震災から10年が経過しました。

私がトリウム熔融塩炉に興味を持ったのは、福島第一原発の事故の原因を調べ、代わりのエネルギーの可能性を調べ、いろいろな要素(CO2、プルトニウム、廃棄物問題等)を考慮した結果、トリウム熔融塩炉の優位性に行き着いたからです。

 

菅総理大臣は「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」と所信表明演説で発言されました。世界はパリ協定をきっかけに、二酸化炭素の排出量を実質ゼロにする“脱炭素”社会の方向に向かっています。

 

太陽光発電や風力発電等の再生可能エネルギーに移行すれば良いという単純な話がありますが、これらは現時点で安定した産業用の電力には不十分です。(バッテリの技術が今より2桁ぐらい上がれば可能かもしれませんが・・・)

地熱発電は安定していますが、大容量の発電には向きません。残る選択肢は原子力発電ですが、福島第一原発の事故を考えると、軽水炉が最適とも言えません。

 

日本国内では福島第一原発の事故以降、原子力発電に関して完全に否定的な意見が大半を占めています。多くの人は、日本国内で使われている軽水炉以外にも、第四世代の原子炉と言われている、トリウム熔融塩炉や高温ガス炉などの、全く構造の異なる原子炉が存在する事を知りません。

 

トリウム熔融塩炉の特徴を簡単に紹介しますと、

●燃料はウランではなく、ウランより豊富で安価なトリウムを使用する。

●固体燃料を使用せず、熔融塩により液体状態になっており扱いやすい。

●他方式の原子炉と異なり、炉内で超ウラン元素がほとんど作られない。

●炉内でプルトニウムや高レベル放射性廃棄物の処理が行える。

●災害時に電源喪失が起きても、構造上福島のような事故とならない。

●小型化に向いているので、電力消費地の近くに設置することができる。

以上のことが挙げられます。(私の理解している範囲でまとめてみました)

 

トリウム熔融塩炉は、1960年代に、アメリカのオークリッジ国立研究所で開発され、2年間ほど無事故で試験運転されました。しかし、残念ながら軽水炉との開発競争に敗れ、実用化には至りませんでした。

理由は、原子炉内でプルトニウムが生成されないことだったと言われています。(冷戦時代ですから、軽水炉から生成されるプルトニウムを、核兵器に転用することも想定されていたということでしょう。)

 

現在、日本国内には使用済み核燃料から分離した、約46トンのプルトニウムが存在しており、これは国際的に保持が禁止されています。また、核兵器の廃絶を望むのであれば、今後多量の兵器用プルトニウムを処分しなければなりません。

トリウムは放射性物質ですが、自ら核分裂を起こさないので、トリウムからウラン233を作る必要があります。そのための中性子源としてプルトニウムを使用することで、プルトニウムを消滅させることができます。

 

最近、トリウム熔融塩炉に関して、中国が特に開発を早めています。エネルギー政策として、ウランより豊富で安価なトリウムを使用するという事もあるでしょうが、レアアースを産出すると、放射性物質のトリウムが廃棄物として多量に生み出されますので、これをエネルギーとして利用することができるようになります。

 

この中国の動きにアメリカが敏感に反応し初め、アメリカも中断していたトリウム熔融塩炉の開発を再開しました。現在、アメリカやカナダでトリウム熔融塩炉開発のベンチャー企業がいくつかできています。

日本国内も現在唯一、株式会社トリウムテックソリューションというベンチャー企業がトリウム熔融塩炉の開発を行っています。日立や東芝などの旧態依然とした原子力大手ではなく、ベンチャーが開発を手掛けている事に期待したいと思います。

 

私は原子力の専門家ではないので、間違っている記述もあるかもしれませんが、詳細は古川先生が書かれた「原発安全革命」を御参照ください。

https://www.amazon.co.jp/dp/4166601873

 

古川先生は亡くなられましたが、日本には多くの基礎研究の技術がまだ残っています。この技術を継承して、トリウム熔融塩炉の開発を日本で行って欲しいと切に願っています。

 

追記

現在、トリウム熔融塩炉の最先端は中国になりつつあります。2040年頃には世界中の原発が寿命を迎えますので、その時中国が最大の原発輸出国になっているかもしれないのが不安です。