21世紀の資本主義(2)−「反」ではなく「非」の哲学を!

東京都文京区 松井 孝司

 

21世紀の新しい資本主義

 21世紀のキーワードは「持続可能性」である。人類にとって持続可能性は最重要課題であり、2015年の国連サミットでは2030年までに達成する持続可能な開発目標SDGSustainable Development Goals)の17の目標が採択され、環境保全と持続可能性を重視するESG企業への投資が推奨されるようになった。

日本では過去30年間経済の低成長がつづき企業の株価が低迷してきたがアベノミクスによる金融緩和政策と日本銀行(日銀)による「株の爆買い」で株価が維持されているのが現状である。

2018年は年末から2019年の年初にかけて株価は海外ファンドによる売り操作で乱高下し、日経平均株価は5000円も下落し20000円を切ったが再び上昇に転じているのは日銀によるETF(株価連動投資信託)の爆買いのお陰である。

現状のままではETF対象の東証一部上場企業の大株主は日銀になり、日銀が保有するETFの含み益は株価で大きく変動する。日経平均株価が18400円を切ると含み益がなくなり、11700円になると累積赤字が自己資本を上回って日銀は債務超過になるという。

日銀は日本政府と一体不可分の存在であり、日銀の債務超過は日本政府の財政破綻と同義とみてもよいのではないか?

日銀により株価が維持される日本の現状は個人株主が主導する米国とは大きく異なり、日銀が孤軍奮闘する資本主義に持続可能性は期待できない。

 

21世紀には資本主義が終焉を迎えると主張する経済学者が存在する一方で持続可能な新しい資本主義が日本から誕生すると力説する人が出てきた。

 日本経済が高度成長を実現した一時期、日本独特の個人株主不在の資本主義を「法人資本主義」として奥村宏氏は否定されたが、経営の神様松下幸之助氏は「企業は社会の公器である」とされ企業法人が株主、社員、社会とともに発展する重要性を主張された。

原丈人氏が社会に有用な企業を生み出す経済システムとして提案する「公益資本主義」は株主、社員、社会の3者に均等にメリットをもたらす「三方よし」の経営哲学にもとづく「法人資本主義」でもある。

投資家の新井和宏氏は「三方よし」を更に発展させた持続可能な資本主義、100年後も生き残る会社の「八方よし」の経営哲学を提案し、経済性と社会性を両立させる「八方よし」の理念を持つ企業への投資を勧めている。

 新しい資本主義に求められるのは新しい「哲学」なのだ。日本の政治に欠けているのは哲学であり、哲学の貧困が日本社会に低迷をもたらしているのである。

アベノミクスと日銀の金融緩和政策はマクロ経済理論にもとづくもので反対しても問題の解決にはならない。問題解決には新しい哲学にもとづく経済理論と政策が求められているのだ。

 

 

「反」ではなく「非」の哲学を!

 「非」の哲学とは仏教の思想であり、対立する存在を「非」または「不」という表現で否定しながら両者を融合してしまう哲学である。

 日本の大乗仏教は善悪を問わず、実在するものはすべてを受け入れる。日本の仏教寺院では天照大神、八幡大菩薩などの日本固有の神は勿論、梵天、帝釈などの古代インドの神も受け入れている。動物の蛇や狐まで祭る処があり、融通無碍の思想、哲学をもっているのが特徴である。

 仏教で説く阿弥陀仏はアミータ(無量光仏の意)が語源であり、実態は太陽崇拝と思われる。太陽が西の空に沈むのを見て阿弥陀仏が住む極楽浄土が西方にあると錯覚したのではないか?錯覚であっても崇拝する実態を仏教は取り込んでしまったのだ。

 

20世紀初頭に登場したアインシュタインの相対性理論が教える天文学はニュートン力学からは出てこない。アインシュタインの力学は非ニュートン力学であるが、ニュートン力学を否定するものではなく包含している。

科学理論の進歩は常に「反」ではなく「非」の思考方法で進歩してきた。経済理論は科学理論のように検証することができないので試行錯誤は避けられないが、新しい資本主義を実現するためには新しい思想、理論を拒否せず受け入れる融通無碍の哲学が必要である。

 

日本経済の問題解決に求められるのはアベノミクスの金融緩和理論を補完する思想、哲学であり、日本政府の財政破綻を回避するために株価の維持も不可欠の操作である。

日銀に代わる投資家が求められるが、幸いなことに日本国民が所有する個人金融資産は1800兆円もある。国民が金利ゼロでも貯蓄に励むのは税制と老後を保障する年金制度が悪いからである。税制の改革は国民の意識と行動を変える格好の手段であり、「貯蓄から投資」へと国民の意識と価値観を変える税制を提案できる政党が安倍政権に代る資格を持つのではないか。

 日本経済が長期にわたって低迷するのは土地に対する執着が生んだバブル経済が崩壊しても国民の価値観が変わらず、日本国内の土地が生む付加価値が増えなかったからである。日本経済に成長力を取り戻すためには国民の価値観を変え「価値とは何か?」を問い直し、新しい価値を創造しなければならない。

 

21世紀には価値観が異なる米国の金融資本主義と中国の国家資本主義の対立は避けられないと思われるが、両者が反目しあっていては問題の解決にならない。「非」の哲学で両者の長所を融合し、欠点を排除することにより新しい持続可能な資本主義が日本から生まれることを期待したい。