忘却のかなたから -7

東京都渋谷区 塚崎 義人

「かたよらないこころ、こだわらないこころ、とらわれないこころ、

ひろく、ひろく、もっとひろく〜〜〜」

薬師寺元管長・故高田好胤師

“見きわめる”眼力(統覚)

人には他の生きものにない能力が、“統覚(意識の統一)”といわれます。その能力は時刻から時間へ、位置から空間へ、起きている現象から因果律へなど、ばらばらになっているものを統合し連続性ある考え(概念)を生みだせることです。人によって能力に差がでますが単に鍛え方の違いだけです。

この能力は生まれつき(先天性)・生まれたあと(後天性)でしょうか、生まれつきのものです。ただ、能力がはたらき始めるのは生まれた直後の間に外からの刺激がきっかけとなります。もし入らないといつまでも潜在的(一種、記憶の空白)なままで、鳥のひななどにある生まれた直後に目にする動くものを母親と思いこむ刷り込みの臨界期(ぎりぎりの限界)のように、その臨界期にどのような刺激が埋められるのかです。

その意味では生まれた後からでもあり、生まれつきと生まれたあとの中間にあって生まれてから外の刺激ではたらき始め、さまざまな体験や経験とともに長い年月鍛えれば鍛えるほどより深く高い能力を発揮します。

1.  情報(ある・ない)の中に“連続性”を見いだす

2.  経験や体験の中から“経験しえないもの”を生みだす

3.  情報(ある・ない)を知る前に“一つのまとめ”を創りだす

 

1.社会現象を見きわめる-1

はじめに、人の考えはさまざまなのでこうなのだと断定はしません。

まず、ここでは、ただ単に理念的なことや理論的なことをお互い学び検証できたということだけではなく、考えをすこし進め外から影響されている自分ではなく自身の考えから社会の定点(最も望ましい価値観)を見きわめ、さらに何を目指そうとしているかを理解していただければと、その一歩は自身へ問いかける素朴な疑問からはじまります。

社会の根幹を構成するものの一つに道徳観(精神的風土)があります。人の行うさまざまな行為を道徳的な観点から善い・悪いと高名な方々は考察し論じたりしますが、ただ、お話を聞いて納得するのでなく自分で真意を確かめたり自身に当てはめたりしてみることも大切なことです。

人は実生活の中で誰でも多かれ少なかれ道徳について思いをめぐらせていますが、さまざまな社会現象に対し思いめぐらせることがあっても、それが過ぎ去ってしまうと、その現象の内に潜んでいる道徳的に解決すべきものも片付けられてしまいます。

日ごろから人々の行動の中にある道徳について自ら「問いかけ」をしてみなければ考えしづらく、系統だった道徳観へ考えをまとめることに進まないのが世間一般です。今のところ、真面目に意識しなくても人々はそれなりに道徳的なものを持ちえていますので、なんとなく社会生活は円滑にすすんでいますし、多少なりとも社会に混乱があったとしても平穏無事に社会生活は保たれています。

まずは、社会の規範(行動する際の手本)について考えてみます。規範はその地域社会でのみ通用するきまり(約束ごと)がさまざまに入り混じる他律的(他者により律される)なものがほとんどです。そのため、そこに自律的(自分を律する)な規範を持つ人はそうめったにいません。

人は幼少期から「きまり」を身につけ始め、自分はどのように動けばよいか、まわりの環境を手探りしています。まず、はじめは自分の行動が大人の意思に従うことが善いこと自分の頭で考え行動するのは善くないことと他律的な「きまり」を守ることを学びます。

学童になると、きまりは社会一般的なもので両親や大人や先生が命令するからではなく「きまり」そのものが命ずるから従うものと考え始めます。なぜなら、きまりは一方的に大人の社会から与えられた他律的きまりばかりでなく、子供同士の遊びの中でお互いの約束で了解してるきまり(自律的なきまり)も子供同士の交流から学びます。

この頃から子供はきまりが単に外から与えられ自分と関係ないものだとは見なさず行動の際は参考にします。このような他律・自律が混ざった「きまり」を自分がコントロールし自己規制できる自立した年齢まで続いていきます。

社会の規範が「きまり」の集まったものだと理解するようになると、子供は規範を子どもなりに善悪の正義感から批判しチェックしたりするようにもなります。ただ、未成熟な子供が持つ正義感は、他律的・自律的な規範から起こるさまざまな善悪の社会現象に対し、本人が実際に被った不正か思い違いで被ったと勘違いした不正に対し仕返しをしようとする振る舞いからはじまります。懲罰を下すべきだという願望と結びつき歳を重ねても、仕返し願望の正義感のこだわりからぬけきれていない多くの大人がいるのも事実です。

普通、子供は大人に成長するにしたがってすこしずつ仕返しや制裁の願望を伴わない客観視できる正義感へと変化していくものです。

規範(法律も含む)の本質は「きまり」に人々がもつ善悪の感性が集まったものです。

 

規 範:行動や判断の手本

きまり:おたがいの約束ごと