トリウム溶融塩炉とレアアース

千葉県柏市 峯木 貴

 

トリウム溶融塩炉とは、トリウムを燃料とし溶融塩を一次冷却材とした原子炉の一種である。しかし、以下に説明するように、現在のウラン型の原子炉と異なり利点が多く、また、平和利用を主目的とした画期的な原子炉である、といわれている。

 

トリウム溶融塩炉の特徴は次のとおりである。

1.      ウランではなく、原子番号が二つ小さいトリウムに中性子をあて核反応を起こすものである。

2.      ウラン型の原子炉は個体の燃料棒を使うが(燃料の表面だけの反応となってしまう)、トリウム型は液体の溶融塩を使うため、核反応の制御が容易である。

3.      ウラン型に比べトリウム型の方が発電効率が高くなる。

4.      ウラン型はメルトダウンすると暴走するが、トリウム型はメルトダウンするとガラス固化し反応が自動的に止まってしまう。

5.      ウラン型では副産物にプルトニウムができるが、トリウム型ではプルトニウムがほとんどできず、軍事利用がしにくい。

6.      トリウムからは多量のガンマ線が出て、すぐにトリウムだということが分かってしまうため、テロリストが盗むことができない。

7.      トリウムは、副産物として豊富に存在している。

 

ただし、以下のような欠点もある。

1.     ガンマ線は非常に毒性が強く、ウラン型より多量に放出される。しかし、このガンマ線は建屋の被覆を鉛版や分厚い鉄板にするなど物理的に解決できるだろう。

2.     700℃の溶融塩を循環させるため、配管材質は相当吟味する必要がある。ただし、それでも腐食は免れず、特に、腐食に弱い曲管部分の構造等を考慮する必要がある。技術上一番のネックになるかもしれない。

3.     溶融塩に使用するベリリウムは毒性の高い物質といわれている。これを漏洩させるわけにはいかない。

 

 

ところで、このような炉が中国で開発が進んでいる。中国は一方でウラン型の原子炉を今後も多数建設する計画で、その裏では、発生するプルトニウムを「中華的世界平和利用」に使おうというものである。

 

なぜ、中国でトリウム溶融塩炉の開発が進んでいるのか? まさか、中国が本来の意味の平和を目指していると考えている人などはいないだろう。

 

中国といえば、ネオジムやジスプロシウムといったレアアース産出世界一ということは、よく知られている。

 

しかしレアアースは世界中に分布している。レアアースは、金鉱などと違い、これらの金属が単独で存在するわけではない。複数のレアアースがいろいろな割合で存在する。

 

そのレアアース鉱から副産物として多量のトリウムが産出する。このトリウムは放射性を帯び、廃棄処分に困っていた。そこでトリウム溶融塩炉が出てくる。この困っていた副産物を有効に利用できるからである。

 

だから、中国はトリウム溶融塩炉の開発に力を入れている。

 

一方日本の政府は、トリウム溶融塩炉には興味がないようである。わざわざトリウムを輸入してまでも、開発はしたくないのだろう。

 

しかし、昨今沖ノ鳥島沖でレアアースが見つかるということもあった。これが実用化されれば、副産物のトリウムも多量に産出するだろう。そうなれば、日本も重い腰を上げてトリウム溶融塩炉の開発に乗り出すかもしれない。

 

それには、石油利権や原子力利権を打破する必要がある。日本は資源のない国、と相変わらずの刷り込みようである。マスコミに登場する「評論家」といわれる人は、いまだにエネルギーの安定供給には輸入地の分散が必要だといっている。自主エネルギー開発という言葉は一切出さない。重要なことは、エネルギーの分散ではなく、自主エネルギーの確保である。分散はその次である。

 

ということで、トリウム溶融塩炉は将来有望なエネルギー源になることは間違いない。