高速無料化を断念せよを読んで

東京都文京区 岡戸 知裕

118日 日経の記事“高速無料化断念せよ”を読んで

この記事は旧日本石油社長渡文明氏により書かれているが、自分の職掌範囲である道路に関して全くと言えるほどの知識の欠如に驚かされ、また混んだのでけしからんという単純な発想で書かれていることに驚きを隠せない。

以下彼の論評に対する反論である。

1)          この夏、休日に中央高速で東京に帰ろうとしたところ大渋滞に巻き込まれ、バックして三島から新幹線で東京に帰らざるを得なかったとのことで渋滞による利便性の低下に問題ありとしている。

反論

常識として夏の中央高速で東京へ帰るとなると、まず午前中にしかも渋滞を避けるのであれば午前早くに出ないと渋滞に巻き込まれてしまう。おそらくご本人は午後に出発したのではないか。

このタイミングで東京へ帰るのであれば、自分であれば迷わず鉄道を選択する。

航空機、鉄道、自動車という交通手段は適時選択すべき問題で選択を誤れば大混雑に遭遇するのは当たり前だ。フランスでさえバカンスのときはどこも大渋滞となり世界中にこのニュースが配信される。これに怒ってみても始まらず、これを無料化論議に結びつけること自体ナンセンスということだ。

結論として東名のような基幹路線で3レーンというのは世界の恥だと思う。中央高速については2レーンしかなく混むのは当たり前だ。モスクワから出る基幹路線は12レーンでそれ以外でも6レーンもある。またパリの環状線は多いところで8レーンあり日本の東名が3レーンというのは実にナンセンスだ。これも本来需要のあるところに道路を作らず、キツネや狸が出てくるようなところばかりに道路を建設してきたつけが回ったとしか言いようがない。さらに言えば貧困なる政治の結果であるとも言える。

2)          観光立国政策にマイナス

膨大な財政赤字の中で無料化のための財源に税金が使われ観光地の道路整備が遅れるのではないかとの指摘及び車を乗らない人まで無料化の財源を負担させられるとの指摘について

反論

ガソリン税や軽油引取税は特別会計に入り自動的に国道及び地方道に配分されてしまう。今現在国道や地方道はかなり整備されておりこれ以上整備が必要ないのではと思うくらいである。おそらく筆者は特別会計の存在をご存じないのでは?

むしろこれ以上の一般道整備は不要と言わざるを得ないのではないか。むしろ国債償還に回すべきか?

無料化の原資はどこから調達するかという議論であるが、自動車ユーザーが支払う年間10兆円の税金の中で一般税の部分がかなりあり、そこから捻出すべきだ、または世界の常識の通り、ガソリン税や軽油引き取り税の半分を回せば可能である。つまり日本中道路だらけにする必要はないのだ。

このまま特別会計にいれておくと日本全国が道路で埋まる計算だ。土建屋にとっては朗報でもTax Payerにとっては酷い話である。

最後に自動車ユーザーが支払った膨大な税金をもっと有効に使えば、渋滞は解消できるはずだ。道路建設を競争入札にしては?

3)          本記事に付随する日経特別編集委員 森一夫氏の論評

“目先の利害にとらわれてもっと大きな問題を見失うな”とのことであるが、

目先の利益にとらわれているのは渡氏で休日の大混雑に対して大変お怒りのご様子、これが目先の利益でなくて何なのか?大きな問題とは日本中を道路だらけにするなということではないのか。つまり首都圏の様なところは道路だらけでしかたがないが観光地までそうする必要がどこにあるのか?知床や八甲田まで道路で埋める必要はないのだ。森氏の常識を疑わざるを得ない。

4)          受益者負担でよいものをタダにするのは、ばらまきです。

反論

受益者負担の原則は過去から貫かれており、ガソリン税や軽油引き取り税がそれにあたる。自動車ユーザーは長年重い負担に苦しんできている、例えば暫定税率など。

さらに高速道路の通行料金を支払うということは二重課税に当たる。

景気を良くしようというのなら無料化または道路の補修もあるので無料化に近い形にするべきだろう。これはレーガン減税のような効果をもたらすと思う。

つまり無料化による減収を大幅にこえる税収があがるということだ。

このあたりが見えるか見えないかが分かれ道になる。

5)          最後に

自動車ユーザーは毎年自動車関係諸税と言われる税金を10兆円程負担している。

このうち半分ほどがガソリン税や軽油引き取り税などで構成され自動的に国道や地方道の整備に回される。

この他に高速道路の走行料金が2兆円程あり合計で12兆円程の負担になる。

これだけ払っても東名は3車線で首都高などは2車線で慢性渋滞である。

首都高の慢性渋滞の原因は首都高の環状線がないからでパリであれば8車線の環状線がある。

最近自動車保有台数が初めて減ったという新聞報道があったが、これはこの不況の中で自動車を手放す人が増えていることに他ならない。日本は自動車生産大国であるが日本人自身が自動車を保有できなくなるか軽自動車に移行せざるを得ない状況に追い込まれている。トヨタでさえ長らく国内事業は赤字で北米の利益でようやく利益がでるようなお寒い状況の中にあった。日本は自動車輸出で黒字が保たれているが、この輸出が効かなくなると経常収支が赤字となり昭和30年代ごろの1ドル360円か200円時代に後戻りすることになる。となると輸入食料が値上がりして年金生活者を直撃することになる。

自動車の購入時に掛る税負担から始まり、保有、走行段階に亘る重い税負担は自動車の所有を阻害する方向に働くのは当然である。日本人の飯の種と言われる自動車産業を日本人自身が踏みつけにしているようなものだ。

そんな状況であるが故に道路に対する基本的な認識が殆どないという絶望的な結果を招いている。

ドイツでは道路が車を作るということが国民の常識になっている。

その車が強いドイツ経済を支えており、外貨の最大の稼ぎ手になっている。

ドイツのアウトバーンには速度制限がない、速度は個人の責任ということになっている。まことに大人の社会だ。但しトラックにはタコメーターがついており、必ず数時間ごとに休憩をとることが義務づけられている。日本の場合は2−3日でも仕事がある間は不眠不休でトラックの運転をする場合が多く事故に繋がっている。

何を規制し何を規制しないかまずは哲学の問題だろう。