インフレターゲット政策に反対する

東京都世田谷区 武内 雨村

○予期する物価上昇は起こすことは出来ない

そればかりか、資産バブルの発生が懸念される

 

インフレターゲットについて批判派と肯定派が十年以上も論争を続けている。民主党松原仁議員が国会でインフレターゲット政策の導入を主張している。

批判派と肯定派は貨幣か、実物セクターか{資料1}の二分法で区別される。いずれの主張が現実に妥当するのか。  

 

◆物価上昇は意図的に無理である {資料2}

交換方程式MV=PQ  貨幣×貨幣流通回数=物価×生産量でVQは一定とすれば、左辺の貨幣Mがふえれば、右辺の物価Pが値上がりする、ということが量的緩和で物価を上げて…、と期待をかけているのが肯定派の心である。物価の上昇が資産価値の減少をきたすので、金融資産から実物経済の財、サービスに向かうので、すべては芽出度し芽出度しで終わる。

予想する物価の上昇は不可能だと思う。世界的な事件で原油の高騰があるか、大気象異変で農業に打撃があって食料の暴騰となるか、のような場合を除いて一国だけで政策的に物価の上下というコントロールが出来ないのが、地球規模での経済活動となっている現在での前提である。つまり一国だけでの経済活動が完結するクローズドエコノミーではなく、グローバル化という言葉でお分かりのように、オープンエコノミーの現状が、肯定派の前提から消えている。

日本のデフレの要因を一つには中国からの低価格製品の輸入にあるという野口悠紀雄氏の主張に対しては、個別の財の相対価格の下落でデフレだというのは、相対価格と一般物価水準の区別も知らないのかという立場からの反対意見が浜田宏一氏から出されている。その浜田宏一氏は、経済セミナー2010August/September)で肯定派を代表すると思えるほど、力説している。ブルームバーグ記者、日高正裕氏は、2000年前後にインフレターゲット論者浜田宏一氏{資料3}が内閣府経済社会総合研究所の所長をしているころは「野口悠紀雄氏は一般物価水準と相対価格を区別していない」と集中攻撃を受けたとのこと。対する野口悠紀雄氏は告訴も辞さないという決意しめしたとのこと。日本でのインフレターゲット論争は純粋な政策論争というよりは政策当局間の駆け引き、あるいは個人攻撃の道具として使われている観があり、ある種のいかがわしさがあるようだ。日高氏はさらに、日銀にインフレターゲットを求める本音の部分は自分たちの役所の責任回避のためのようにも見えるという。政策論争と思ってまじめに取り組む人たちにも、ぜひ日高氏の危惧を念頭においていただきたい。民主党松原仁議員の主張、みんなの党渡辺喜美議員の主張も、主張の裏を見極める必要があるかもしれない、としたほうが安全だ。特にみんなの党の選挙公報の四パーセントという数値には疑問が残る。具体的な数値を示そうという重いからか、クルーグマンのあげた数値の鵜呑みか。この部分資料を参照されたい。

 

◆資産バブルの発生の危険がある。

インフレターゲットが宣言だけでは効果が期待できない以上は量的緩和を含むインフレターゲット政策となる。現状も金融資産は十分にある。金本位制時代のように金準備の量によるデフレではないからだ。現在の実物経済デフレということは、金融資産が不当に高い評価を受けていることだ。

現在、財の供給は過剰状態である。金融資産が供給に制約のある財に向かうときにバブルが発生する。デフレとは通貨収縮である、とした高校教科書的認識は、金本位制の時代とはことなり今では誤りである。現代のデフレとは貨幣バブルの一面を持つ。デフレ下では資産価格も一応下降するが異常な高値をつけるときがある。十七世紀のオランダのチューリップ、バブルという名前の起源となったイギリスの南海泡沫事件、十九世紀末の鉄道バブルなどはいずれもデフレの時代に起きたものである。榊原英資氏は構造デフレの下では政策当局は特に「インフレの夢よ、再び」の声に耳を貸してはいけないと警告している{資料5}。インフレターゲットへの肯定論者は資産バブル発生の危険性に注目すべきである。