地震被害想定

生活者主権の会代表 小俣 一郎


 昨年12月に国の有識者会議が「首都直下地震の被害想定」を発表した。死者最悪2.3万人、経済被害95兆円の大きな文字が新聞紙面に並んだ。

 この数字自体は大きいものではあるが、これを見た第一印象は本当にこれで済むのだろうかということだった。一昨年の8月に有識者会議から発表された「南海トラフ地震の被害想定」では、死者最悪32万人とされていたからだ。(経済被害は昨年3月に最悪220兆円と想定されている。)

 そこで改めてよく記事を見るとそこには大きな違いがあった。南海トラフでの想定は、最大でM8とされた宮城県沖でM9の地震が起きた東日本大震災の教訓等を踏まえ、M9.1という「千年に一度」の地震を対象にしたものだったのに対し、首都直下地震の方は、頻発するM7クラスを対象にしたものだった。これでは比較する方が間違いである。

 首都直下地震の想定を報じる新聞には、想定されるM7クラスのいくつものタイプの震度分布図が掲載され、記事をよく読むと、M8.2の関東大震災タイプの被害想定も載っていて、それだと最悪死者7万人、経済被害160兆とあった。だがM8.5の元禄関東地震タイプの被害想定は載っていなかった。

そこでこの2つの被害想定についてさらに調べると、同じ「有識者会議」といってもトップが違い、メンバーも一人を除いて違うこともわかった。メンバーが異なれば想定に対する考え方に違いが出てくるのも当然かもしれない。

しかし、同じ「国の有識者会議の発表」ということで、多くの国民がこの2つが同じ方針で想定されたものと勘違いするのではないのだろうか。

朝日新聞には、古屋防災相は「直近に起こるものへの対策を重視した。南海トラフの想定の仕方と違うのは理解頂きたい」と説明した、との記載や、南海トラフの被害想定をした有識者会議でのトップだった河田関西大教授の「『想定外をなくす』という東日本大震災の教訓が生かされていない」とのコメントも掲載されていたが、現実的には、紙面上に大きく示された数字のみが今後も何度も使われ、それのみが国民に刷り込まれていくのではないだろうか。

 比較対象が異なるのに、南海トラフは32万人、首都直下は2.3万人という数字のみに焦点があたれば、国民の持つ印象は大いにその影響を受ける。対策に対する考えも、気構えも変わってくるだろう。これは極めて危険である。

『最悪』という言葉が持つ強い印象を踏まえて、政府は改めて首都直下地震に対して、少なくともM8.5タイプの被害を想定し、それこそ最悪どのくらいの被害が想定されるのかを大きく公表し、国民の注意を喚起すべきである。

そして南海トラフ地震に対しても3つの地震が別々に起こる場合等、首都直下地震想定と同様により多くのパターンを想定し、公表すべきである。

地震被害想定が国民に誤解を与えるものであってはならない。国民に誤解を与えないように両方の想定を同じ土俵に乗せて知らせるべきである。