道州制に思いを馳せる「ふるさと納税」に

東京都渋谷区 岡部 俊雄


 ふるさと納税が施行されて今年で2年目を迎える。本年3月の確定申告で、始めてふるさと納税の税額控除の手続がとられることになり、確定申告書やその手引きにも、始めてふるさと納税の税額控除に関することが記載された。

 当然のことながら、地方の多くの自治体はこのふるさと納税に期待をかけ、これを知ってもらおうと、制度の概要や、寄附金の使い方、寄附の申込み方法などをいろいろな手段で熱心に宣伝している。一方、税金を持っていかれる側の都市部の殆どの自治体は黙り込んだままである。

 当会は二大活動テーマの一つに道州制の実現推進を掲げており、この生活者通信でも道州制に関する多くの記事が掲載されてきたが、このふるさと納税が個人の意思による地方財政の水平調整機能を果たす些かの力になってくれればと思うと同時に、道州制実現の一つの力になってくれないものかと期待している。

 現在各方面で議論されている道州制論は、殆どがその必要性と、新しい国の形を決める制度論で占められている。

 勿論、この制度がこれからの国の形を決め、我々の生活のありようを決めるわけだから、徹底的に議論しなければならない。

 しかし、この制度論の議論が、ある種のイデオロギー的色彩を帯びてきて、一般国民に道州制を自分達とは違う世界の話のように思わせてしまい、これ程重大なテーマであるにもかかわらず、多くの国民に、未だ十分に理解してもらえていない原因になっているのではないかと思う。

 言い換えれば、一般国民にとって最も関心があるはずの、道州制が実現したら自分達の地域がどのように変わるのか、自分達の生活がどのように変わるのか、あるいは、どのように変えられようとしているのか、というメッセージが殆ど伝えらないまま、また、考えるきっかけが与えられないまま、一部の人達で制度論の議論が進んでいるということである。

 道州制が成功するための大前提は、新しく編成された道州に人が集まり、Iターン、Uターンも含めて多くの人がそこに住み着くことである。そのためには、そこに人々の生活を支えるだけの十分な仕事があることが必須条件である。

 道州制の制度設計が終り、実行に移されれば、最早人任せにできる段階ではなくなる。自分達の道州にどうやってどのような仕事を作るか、そしてその道州をどのように経営するか、自分たちで考えて決めなければならなくなる。

 道州制の実施までには、今後少なくとも10年の猶予がある。この10年の制度設計や準備の期間中に各道州を想定し、その道州にどういう事業を確立し得るのか、皆が今のうちに思い描いておく必要がある。

 特に、都会に住んでいる者は、地域のことに無関心であることが多い。今東京に住んでいる者が、東京を離れてその地域、その道州に住み着くとすれば、その地域、道州にどういう生活圏を整えてもらいたいか、また、それはどうすれば実現可能か、一方、引き続き東京に住もうとする者は、人口が少なくなった東京をどのように特色づけ、活気に満ちた首都にするか、思いを馳せてみる必要がある。

 ふるさと納税が直ちに地方財政に大きく寄与することにはならないにしても、このように地域に思いを馳せる一つのきっかけになってくれることを期待したい。

 このふるさと納税は、かつて自分が住んでいたことがある「ふるさと」に限定されるものではない。確定申告の手引きには、『都道府県・市区町村に寄附をした場合、5千円を超える部分の金額について、個人住民税所得割の概ね1割を上限として、所得税と個人住民税の控除を合わせ、その全額が控除されることになりました。』と書かれている。

 このふるさと納税を利用して自分にゆかりのある地域に、今納めている所得税や住民税の一部を振り替え、あるいは、振り替えることを想定して、その地域の道州制実現後のあり方に是非思いを馳せてみようではないか。