国の予算・決算は非公開

逢坂誠二衆議院議員(民主党)ホームページより要約転載


【その1】

日本の国家予算と決算は形式的には公開されていますが、実質的には非公開です。

もちろん予算書も決算書も公開されており、説明を求めると霞ヶ関から説明にも来ます。

しかし、私は予算・決算が実質的には公開されていないと断言しています。以下そのことを分りやすく説明したいと思います。

情報の公開は民主主義の原点です。

情報が公開されていなければ、主権者である国民は判断ができず、逆に不適切な情報によって、権力者に都合の良い方向に民意を誘導することも可能になります。

国政に関する基本情報は、なるべく生の形;分りやすい形;簡便に入手できる方式;当然に;常に公開されていなければなりません。

 

【その2】

国の予算や決算に関する情報が充分に公開されていないことは、国民もマスコミも良く知りませんが、事実です。

「そんな馬鹿なことを言うな」と凄む官僚もおりますが、「私の望む予算・決算情報を持って来て下さい」と頼んでも、私の手元には届きません。

日本の国家予算の現状は、予算が適切に計上されているかどうか検証できず、計上された予算がどう使われているかを十分に知ることもできません。

予算と決算情報の公開が不充分な中で議論をしても意味がありません。

政策議論以前に、民主主義の基礎ともいえるこれらの条件を整えることが先決なのです。

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町内会の予算を例にすると、分かりやすいと思います。

総額100万円の町会予算があったとしましょう。

歳出内訳は、総務費           40万円

      行事費・町会館維持管理費 60万円

しかし、これだけでは予算の適否を判断できません。

適否が判断できない理由は、総務費、行事費の内訳があまりに大雑把で、内訳が記載されていないため、適否の判断ができないのです。

総務費なら、次のような明細をつけるべきなのです。

総務費40万円

  総会費 5万円(定期総会1回・臨時総会1回)

     会場使用料 1万円×2回分

     茶菓 5千円×2回分

     議案作成費 印刷など1万円

     会議通知郵便料 1万円

  役員会費 3万円

     会場使用料 1万円×2回分

     議案作成費 印刷など5千円

     通知郵便料 5千円

  会長手当 12万円(1万円×12ヵ月)

  副会長手当 6万円(5千円×12ヵ月)

  町会会館維持費 14万円

     電気料6万円(5千円×12ヵ月)

     上下水道料6万円(5千円×12ヵ月)

     町会館維持管理特別会計繰出金 2万円

以上の内訳があって初めて予算の適否を議論できます。

総務費40万円だけでは、何に比べて多いのか少ないのか分からないのです。

 

【その3】

日本国の予算はどうでしょうか?

1例として、平成20年度総務省所管予算総額約17兆円のうち、地域振興費は838.8百万円です。

内訳は、           (単位:百万円)

 諸謝金               6.6

 職員旅費            12.4

 委員等旅費             8.0

 庁費              89.8

 地方振興対策調査費       169.0

 招へい外国人滞在費         1.2

 過疎地域集落等整備事業費補助金  245.8

 地域間交流施設整備事業費補助金 305.9

この情報だけで、予算の適否は判断できません。

たとえば「庁費約9千万円」と言われても、内訳が分らないのでそれが適切かどうか、判断できません。

総務費を40万円とだけしか公開しないのと同じです。

そこで地域振興費の積算内訳を要望しますと、各省庁からの回答は以下のとおりです。

・ 要求のような積算内訳を出したことがない

・ 要望のような資料は膨大な量となるので出せない

・ 知りたい部分や事業を特定すれば説明に行く

詳細資料を持ってくる場合もありますが、総務費40万円の内訳として、「総会費5万円、役員会費3万円が含まれている」程度の大雑把な明細なのです。

つまり国の予算は、官僚が説明したい部分だけを、彼らの都合の良い方法で説明することで、予算全体公開することではありません。

 

日本の予算非公開には二つの原則があって、

 ・詳細積算内訳は出さない

 ・予算の全体像は見せない

つまり形式上公開しているように見えても、判断材料にならないので実質的には非公開と同じです。

そこで議員以来、3年に渡って強く要請を続けた結果、本年ようやく総務省所管予算の積算内訳を入手しました。これは、今まで与党にも出さなかったそうです。

予想通り、予算積算は極めて杜撰でした。

10年以上も自治体予算の査定をやってきた感覚(逢坂氏は元北海道ニセコ町長)と自治体予算の現状から見ると、余裕だらけ、意味不明の計上が随所に目につきます。また、担当部署の説明は、財政に苦しむ北海道内の市町村なら、財政当局から一刀両断のうちに切り捨てられるほど曖昧でした。

国の予算情報が非公開であるとはこういう意味なのです。

 

【その4】

こうした明細は、国会議員が何度もお願いしなくても当然公開されているのが民主的な国家運営です。

日本の国会では、国民の皆さんが考えているような予算審議はしていないのです。

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日本国の予算には、もっと驚くべき事実があります。

平成20年度地域振興費約8億円の積算内訳の適切さを判断するためには、過年度にどのように決算されたかが参考になるので、総務省に「平成16〜18年度の地域振興費決算明細」を要求しました。この決算は提出済みなのですが、その資料が出ないのです。

以下の数字なら出せるが内訳は出せないというのです。

 ・ 諸謝金

 ・ 職員員旅費

 ・ 委員等旅費

 ・ 庁費

 ・ 地方振興対策調査費

 ・ 招へい外国人滞在費

 ・ 過疎地域集落等整備事業費補助金

 ・ 地域間交流施設整備事業費補助金 

霞ヶ関の省庁は、夏から12月にかけて、物凄いエネルギーを投入し、膨大な資料を作成しながら、財務省と予算折衝を行い、12月に予算案が決まります。

その折衝結果が地域振興費8億円の積算明細なのですが、予算執行段階になると、予算明細通りではなく、大分類=ドンブリ勘定でお金を使っているようです。

あらかじめ補助金として5千万円を計上したと対外的に公表している予算は、そのとおり執行しますが、それ以外の予算は、予算明細通りに執行しないで、上の例では<全体として>8億円を使っているようです。

だから決算数字は提出できるのですが、決算明細は提出できないのです。つまり、予算積算明細に未計上の事業を行ったり、逆に予算明細に計上しているものも執行しなかったりしているようなのです。

反論があるのなら、予算と決算の明細を提出すれば、すぐに証明できることなのですが、少なくとも今日現在、そんな資料を見たことはありません。

 

【その5】

予算・決算を不透明にすれば、官僚にとって好都合なことがいろいろ可能になります。

たとえばニッポン町会では、総務費の中に、

 町会会館維持費 14万円

     電気料6万円(5千円×12ヵ月)

     上下水道料6万円(5千円×12ヵ月)

     町会館維持管理特別会計繰出金 2万円

とういう計上がありました。

この町会の場合は、積算明細がハッキリしているのでこれを超える支出は出来ませんし、下回った場合は不用額=予算残となって翌期へ繰り越されますが、日本国では、予算積算内訳を明示していませんから、次のようなことが可能になります。

 電気料と上下水道料にはそれぞれ5千円しか使わず、        

 飲食費と町会会館特会繰出金にそれぞれ2万円を当て、残った9万円は町会会館特会特例繰出金;これでも合計額14万円ですから予算どおり適切に執行されたように見えます。内訳が明示されないから、どんな使い方をしても国民はその適否の判断が出来ません。

その上、特別会計に関する内部規定を別途定めれば、特例繰り出し金を利用して、本来の予算には計上されていないもろもろの費用に、一見合法的な形式で支出することも可能になるのです。

これは、あくまでも想定事案ですが、日本国がこれと似たことをしていない保証はありません。

一般会計の予算・決算でさえ不透明なのですから、特別会計はもっと不透明です。

 

【その6】

こんな状態の中で、マクロの視点から数兆円単位で財政の是非を論じても、あまり意味がありません。

平成20年度の特別会計も含む予算総額は213兆円です。これは杜撰な予算積算によって計上されたものと推察しますが、仮に、この杜撰さの割合が5%程度だったとしたら、213兆円×5%=約10兆円、つまり消費税4%分に相当する金額がズサンに計上された金額になります。

私は、すべての会計に少しずつ紛れているこの余裕予算のことを、「砂金」と呼んでいます。

「埋蔵金」は、特別会計のストックであり、一度使えばなくなりますが、「砂金」は毎年のフローですから、継続的な財源になります。

多くの国民には、分かり難く、一つ一つは小額に見える反面、官僚にはそのあり場所が良く分かっており、精錬し易いので、隠し財源としては好都合です。

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貴重な税金を国民が納得する形で使い、必要以上の負担増を避けるために砂金の精錬作業が必要です。その上で初めて増税などの議論ができるのです。

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そのためには、徹底した情報公開が必要です。

 

【その7】

日本の年金管理が劣悪なため、貴重な年金が消えていることが明らかになっていますが、総務省では、第三者委員会を設立して対応することになりました。

平成19年度にこの委員会に要した経費は、23億円だったそうです。これは、当初予定にはないので、当然、補正予算などになりますが、実際に増額された額は、8億円とのことです。総務省の説明では、残りの15億円は、計上済みの平成19年度行政評価局所管予算である80億円から捻出したそうです。80億円の予算の中から、その20%近い15億円もの新規財源を捻出したのです。

とすれば砂金率=予算の余裕幅は約20%です。

その後、幾人かの国の職員の方に話を聞くと、総務省に限らず余裕幅を持って計上しているのは事実のようです。

もちろん予算は、すべてががんじがらめで計上すべきではありません。しかし、余裕幅も明示しないで、隠し財源のように計上していることが問題です。(なおこの件は、現在精査中のため、まだ不確かな部分があります。)

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仮に、日本の余裕予算計上率が20%だとすれば、

213兆円 × 20% = 約42兆円

まさかこんなに余裕幅を持って予算計上しているとは思いませんが、仮に砂金率が10%だとしても約20兆円もの財源が捻出できる可能性を秘めています。

しかし、情報が公開されていないので否定も肯定もできません。幾つかの部分的調査から、予算全体について類推するしかないのです。

徹底した情報公開が全ての議論の出発点です。

 

【その8】

ある国家公務員から、予算と決算のあり方について、メールをもらいました。

ご本人の了解を得て、要約抜粋してご紹介します。

この方とは、メールでの付き合いしかありませんが、極めて真摯に行動されているようにお見受けします。

== 以下、抜粋要約 ==

(国の予算と決算に関し)

国の出先につとめるものから見た現場の実状と意見をお届けします。現場の認識では、予算の積算資料は、その通りにお金を使うというものではなく、こういうイメージでお金を使うという程度のものでしかなく、その内容に拘束されるという感覚はありません。

今年から執行管理が厳しくなりましたが、現場でも同一「目」・「事項」の範囲内なら自由に使用可能です。

予算書の「項」、「事項」の目的・使途の範囲内で具体的な執行は自由にできるというのが現在の予算制度であり、現場の認識です。財政法上流用が禁止されているのは項の単位でしかありません。

逢坂様の求めるレベルで予算を積算し執行することは現状では困難であり、財政法の改正が必要です。

 

理由1:役所事務が標準化されていないことです。

たとえば、同じ報告書を作るのにもA事務所は外注し、B事務所は自前で印刷していたりします。

また、備品のスペックも省ごとどころか事務所ごと、部署ごとでも異なっていますので、実際の運用は事務所の実情に応じた運用となっています。

予算書の積算資料の通り執行するためには、事務のやり方をもっと標準化する必要があると思います。

 

もう一つの理由が、予算及び決算を考えるにあたって、落札減に関する考え方に共通認識がないことです。

競争の激化により落札率70%などというのは当たり前の世界です。予算の積算を予定価格で行うのか、落札見込み価格で行うのかによって予算金額が全然違ってきます。

現状、積算は予定価格ベースで行い、落札減で余れば臨時支出に当てたり、落札減を見込んで予算要求時には初めからあげていない内容があったりします。

不用額を出すのを過度に嫌う役所の体質。それから予定価格ベースでの積算では、予定している項目をすべて計上すると予算額が大きくなりすぎるという実情が背景にあると考えます。

 

逢坂様の考える予算執行の方法、及び予定価格ベースで予算を作成することを前提にすれば、予算額と決算額に大きな乖離がないこと自体が不自然なのです。

本来2割から3割の不用額が必ず出てくるはずなのですが、現在の予算・決算の仕組みでその目的が達成できるとは思えず、改善が必要です。

しかし、事前の統制をあまり求めすぎると運用が硬直的となり、現実への対応ができず、不適切な取扱いの元凶となるおそれもあります。

標準化も行き過ぎれば柔軟な対応という面で問題がありますし、現場の裁量が無くなりますので職員のモチベーションの点からも問題と感じます。

 

私自身、予算のあり方についての答えは見いだせてはいませんが、事前の統制についてはある程度柔軟性を持たせる、つまり予算と決算にある程度の乖離があるのはきちんと説明をすることを要件に容認し、一方、決算については情報を公開して審判を仰ぐという方向性がいいのではないかと感じています。今後さらに経験を積んで答えを見出したいと思っています。

== 以上、抜粋引用終了 ==

私が指摘したいのは、どんな事情があるにせよ、予算と決算の詳細が明らかにされないのは大問題です。

積極的な情報公開こそが、行政改革の出発点です。

今の日本の最大の問題は、隠蔽と説明責任の回避です。

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業務の標準化は、ある一定程度理解できますが、すべての業務が標準化できるものではありませんので、業務の標準化を予算・決算改革の条件にすべきではないと思います。

工事等は、原則的に予定価格で予算計上しなければなりません。そうしなければ、起工決議を起案できないはずですし、予定価格ギリギリで落札した場合、契約締結ができないことにもなりかねません。

ただし何本もの工事契約を一費目に計上する場合は、工事一本ごとの予定価格に、予想落札率を考慮して予算計上することがあってもよいと思います。

入札残は、当然、不用額になります。

残があるからといって、何にでも使えるというのは、誠におかしな話です。

自治体では、不用額は、年末までに補正減額をするなどの措置を取っているケースが多くあります。

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国の予算案作成と国会の予算審議および決算報告のあり方を大幅に改善する必要があります。この点は従来あまり議論されていませんが、情報公開とともに日本の行政改革の大きな鍵です。

 


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逢坂議員は今後もこの問題について検証を続けられます。機会があればまたご報告したいと思います。自治体でも積算根拠が公開されていないケースは多いと思います。お住まいの自治体で確認してみて下さい。

(要約 河登一郎)

 

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所沢市の河登さんより「政治や行政に関心を持つ当会会員のような人々はじっくり読む価値がある」とのご提案がありまして、逢坂議員のご了解を頂き、河登さんに要約して頂いた文を転載しました。  

全文は、逢坂議員のホームページ http://www5a.biglobe.ne.jp/~niseko/ からご覧頂けます。  (事務局)