江口克彦氏の「地域主権型道州制」を聞いて

        東京都三鷹市 田代 雄倬


講義の冒頭、江口氏は単なる「道州制」とか「地方分権」という言葉ではなく、「地域主権型道州制」という言葉を使う意義を力説された。これは言葉のアヤではなく、根本的な考え方に関する非常に重要なことであり、まさに卓見である。

現在の都道府県・市町村体制の不合理性については、私は以前から実感していた。仕事で全国を走り回っていた頃のことだ。数時間、車で走っていると5つや6つの市町村を通り過ぎることがよくあった。それぞれの市町村には首長がおり、役所があり、議員がいる。いかにも無駄である。

そして、例えばゴミ処理施設の建設のためには、多数の市町村が集まり広域組合を作っている。具体的に話を進めるためには、広域組合だけではなく、広域組合を構成するすべての市町村と話をしなければならない。それに要する時間の無駄に唖然としたものだった。

また、よく聞く話として、犯罪者の追跡をしているパトカーが県境で隣の県のパトカーに追跡をバトンタッチするとのこと。漫画のような光景である。

このように現在の1都1道2府47県体制、そして平成の大合併で少しは大括りになったとはいえ1800の市町村体制は明らかに時代遅れであることは自明の理ではあったが、今回江口氏の話を聞き、頭の中がきれいに整理されていくのがわかった。

江口氏の話をここで要約するつもりはないが、ポイントについて私なりに思ったことを述べたい。

まず、地域主権型道州制とは、「国・道州・市」の3段階からなるシステムであり、それぞれの役割を明確化することにより、活性化する日本の将来が見えてくる。単なるシステム論ではなく、明るい将来を描きだしており、非常に前向きな話である。

そして現在のシステムの問題点は個々にはいろいろ感じていたが、最大の問題点は中央集権的官僚制にある、という主張はまさに核心を突いたものだった。これは長妻昭衆議院議員が常に主張している、現在の官僚内閣制から「真の議員内閣制」へとの考え方に相通じるものがある。

そして、この地域主権型道州制を成立させるもう一つのポイントは税制である。それぞれが自前の徴税権をもつことの重要性は言を俟たない。現在、各自治体の首長の最重要の仕事は、霞が関や永田町を米搗きバッタよろしく、補助金をもらうべく頭を下げまわることとのこと。自前の税金で自前の政策を実施する、当たり前のことを一日も早く実現したいものだ。

ここで、主題からはちょっと外れるが、道州制の具体案の話である。江口氏が推しているのが12道州案である。東京都は東京特区ということだが、よく見ると「東京特区」は23区のみ、23区以外の都下は「南関東」に入れられている。私は今、三鷹市に住んでいるので、南関東ということになる。どこに入ろうと大した話ではないが・・・。

江口氏はなかなか話し上手であり、ともすれば固くなり勝ちな話をわかりやすく説明された。また、氏は大阪で松下幸之助氏の薫陶を受けただけに「東京、何するものぞ!」という気概を感じた。例えば、江口氏が四国州の知事になったとしたら、こんなことをやりたいと、絵空事ではなく、実現可能な夢を熱を込めて話されていたが、各州が競い合うことでこそ、新しい日本が生まれると確信させられた。

私は日本は全体として既にピークを過ぎており、これからは下降線を辿るのみだ、と漠然と思っていたが、江口氏の話を聞いて、諦めるのはまだ早い、やるべきことはいくらでもある、まだまだ捨てたものではない、と思い直している。

なお、江口氏の考え方は、氏が書かれた「地域主権型道州制(PHP新書)」に詳しいので、まだ、読まれていない方は是非一読してください。

今回、この講演を企画、実施していただいた「生活者主権の会」の役員の皆様にはこの場を借りて感謝いたします。