江口克彦氏の「地域主権型道州制」への熱い思い

生活者主権の会副代表(道州制担当) 岡部 俊雄

 来る7月13日に開催される当会の総会で内閣官房道州制ビジョン懇談会座長の江口克彦氏に「地域主権型道州制」の講演をして頂くことになりました。去る3月24日に「道州制ビジョン懇談会」の中間答申があり、また、同氏の著書「地域主権型道州制」の要約を目下本紙に連載しているところであり、まことに時宜を得た講演であります。

 「道州制ビジョン懇談会」の中間答申に関しましては本紙5月号をご参照頂くとして、同氏のことを予め少し知って頂くため、「地域主権型道州制」に述べられている文章の中から、同氏の思いが分かり易く表現されていると思われる次の四箇所の文章を紹介します。

 

1.日本には「新しい服」が必要 から

 日本がいま必要としているのは、これまでの制度の延長線上にある改革ではまったくない。いま求められているのは「国のかたち」を抜本的に変えること、言い換えれば、中央集権体制から「地域主権型道州制」に変えることである。

 中央集権体制という現在の国と自治体の関係は、欧米先進国にキャッチアップするためにデザインされたものであり、経済が成熟し価値観が多様化した現在の日本にとって、根本的に適応するものではない。むしろ、これからの日本の発展繁栄を阻害するなにものでもないということである。

 大人になれば子供の服が着られなくなり、新しい服が必要になるのと同様に、現在の日本にはその状況にふさわしい新しい制度、「地域主権型道州制」が必要なのである。そして、新しい服(地域主権型道州制)は古い服(中央集権体制)に少し手を入れるだけでできるものではない。その体にあった新しい服を最初からデザインする必要がある。つまり、日本の国のあり方もゼロベースから再構築されなければならないのである。

 

2.富士山型から日本アルプス型へ から

 それでは、いま日本が取り組むべき改革の意義・目的と原則にのっとった国のかたち、「地域主権型道州制」とは、具体的にどのようなイメージになるのか。イメージでいえば、一つの圧倒的に大きな山が麓まで、すべてのものを支配しようとするような「富士山型」の統治機構ではなく、山々がお互いに高さを競い合うような、いわば「日本アルプス型」の統治機構ではないだろうか。一つの大きな拠点があるのではなく、力のある拠点がいくつも存在する「多中心国家」、これこそが「地域主権型道州制」の統治構造なのである。

 中央集権のもとで生み出された「国の支配、自治体の依存」の関係を清算し、自己責任と自由意思を持つ地域の政府が、その特性と住民のニーズを背景にしながら、その地域のありようを「自己責任」をもって「自己決定」し、さらには他の地域と「善政競争」をしていくすがた、これが「地域主権」なのである。

 これを実現するには、中央集権化され、階層化された統治構造ではなく、自治体同士がお互いに競い合えるようなフラット型の構造でなければならない。

 もう少し具体的に説明すれば、国と地域とでその役割を明確に区分けし、地域がその役割を果たすために独自の財源を確保できるよう課税自主権、税率決定権、徴税権をもち、また拡大された条例制定権、法律修正要請権をもち、住民の積極的な参画と自立した財政基盤の確立を前提に、地域が主体的に地域経営に取り組む一方、快適性や効率性、独自性をめぐってお互いに競争を行いながら、日本という一つの国を「共同経営」していくという統治形態である。当然のことながら、「地域主権型道州制」のもとでは、一国複数制度になる。

 

3.道州制の区割りは12州 から

道州の人口規模は700〜1000万人で、12州に再編するのが妥当と考えられる。

道州の人口規模を700〜1000万人とするのは、経済的にも社会的にも同等のレベルにあるEU加盟各国が、だいたいその程度の人口であることを参考にしている。

 州     人口(千人)     現在の都道府県     (人口は2005年国勢調査より)

道    5627  北海道

東  北    9634  青森県、岩手県、秋田県、宮城県、山形県、福島県

北陸信越    7739  新潟県、富山県、石川県、福井県、長野県

東   14069  茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県

東京特別    8651  東京23区

東   19651  千葉県、神奈川県、山梨県、東京都下

東  海   15016  岐阜県、静岡県、愛知県、三重県

関  西   12076  滋賀県、京都府、兵庫県、奈良県、和歌山県

大阪特別    8817  大阪府

中  国    7675  鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県

四  国    4086  徳島県、香川県、愛媛県、高知県

九  州   14713  福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県

 

それら12州の現在の域内総生産と各国のGDPの順位を比較すると次のようになる。

 順位 国名、州名 GDP(億ドル)      [各国の数値は2004年暦年、日本の12州の数値は2004年度]  

 1  アメリカ   117,334.8  15 ロシア      5,827.3    25 デンマーク   2,423.4

 2  日本      52,935.8  16 オランダ    5,779.9   26 ポーランド    2,417.7

 3  ドイツ     27,066.7        九州      4,957.0    27  南アフリカ    2,129.0

 4  イギリス    21,255.1       北関東州    4,927.4  28 ギリシャ    2,054.9

 5  フランス    20,180.8        関西州     4,333.4       北海道       2,047.2

 6  イタリア    16,806.9        大阪特別州   4,027.3   29 フィンランド  1,861.8

 7  中国      16,493.9  17 スイス     3,580.0  30 アイルランド  1,815.2

 8  カナダ      9,958.3  18 ベルギー    3,520.0    31 ポルトガル    1,672.4

 9  スペイン    9,929.9  19 スウェーデン  3,465.3   32 香港         1,645.5

    東京特別州  7,637.8     東北州       3,437.6    33 タイ          1,634.9

    南関東州    7,247.7   20 台湾          3,052.0   34 アルゼンチン  1,519.4

10  韓国      6,814.7        北陸信越州   3,083.9          四国州        1,408.1

    東海州     6,805.6        中国州     3,022.7  35 マレーシア    1,177.8

11  メキシコ       6,765.0    21 トルコ       3,000.9    36 イスラエル    1,163.4

12  インド       6,610.5    22 オーストリア   2,897.2    37 ベネズエラ    1,074.9

13  オーストラリア 6,176.1    23 インドネシア   2,578.7    38 チェコ        1,070.5

14   ブラジル    5,997.3   24 ノルウエー   2,504.4    39 シンガポール  1,068.2

 

4.結び の全文

 「地域主権型道州制」は、中央集権という後発国的な発展モデルを打ち砕き、住民自らの力で地域を活性化させ、地域全体で国を活性化させていく、すなわち「日本どこでもみな元気」にするという、これからの日本にふさわしい「新しい国のかたち」にほかならない。各地域、国民一人ひとりが、みずからの責任と創意工夫で、それぞれに努力し、競争し、協力し、21世紀の日本を、豊かで、安全で、安心で、楽しく、生きがいのある、美しい国につくりあげていきたい。「地域主権型道州制」は、それを実現するシステムなのである。

 私たち自身、そして私たちに続く子や孫のためにも、いま私たちは、画一的、拘束的で、不自由で、個人の個性を抑圧し、依存心と甘えを助長する、そうした中央集権体制を打破し、繁栄と発展、穏やかで活気のある日本をつくるために、「地域主権型道州制」の選択に踏み切らねばならないと信ずる。さもなければ、ほどなく日本は衰退の道をたどり始めるだろう。悠長に議論している時間はない。また、議論のための議論、感情的な議論をしている呆け者であってはならない。いまこそ冷静に、私たちは、日本の明日をみつめて、最善の道を選択しなければならないのである。