暫定分は環境に、本則分は地方に

〜道路建設の主体は地方に移す〜

東京都小平市 小俣 一郎


道路特定財源の暫定税率維持に首長がこぞって賛成を表明している。それは三位一体改革で極端に減らされた財源を「これ以上減らさないでくれ」という地方自治体の悲鳴のように聞こえる。

暫定分が減れば9千億がなくなる。それは地方交付税の2千億の増額など軽く吹っ飛んでしまう額である。民主党の「本則分は、一般財源化して地方の自主財源に」という案が、自主財源という地方自治体からすれば最も好ましい財源であるにもかかわらず拒否されているのは、全体のパイが減少したときの展望が見えてこないからだろう。

しかし、単なる現状維持では地方の知恵は活かせない。限られた財源を有効に使うためにも、これを機に道路特定財源の使途を見直し、併せて、地方が主体的に、十分に力を発揮できる新しい仕組みをつくることが必要である。

政府・与党は暫定税率維持の理由付けの一つとして環境問題を上げている。京都議定書での約束をこれから実行していかなければならない我が国にとってCO2の削減は最優先の課題といえる。ならば、思い切って暫定分は全て環境税とすべきである。それを道路建設に充てるのではなく、環境対策に充てて遅れを取り戻すのである。

具体的には、環境税分2兆6千億を2等分し、半分を森林等の保全のために使用して直接的に環境を守り、残りの半分を石油代替エネルギーの普及・開発等に活用して、CO2削減を技術的に推進するのである。

日本は森林大国であるが、人工林の約8割は放置状態にある。このままでは温暖化によりますます激しくなっている気候の猛威によって国土がいたるところで崩壊しかねない。またCO2の削減に貢献する森林を荒廃させるようでは国の基本姿勢自体が疑われる。先手先手で山林を、さらには農地を十分に整備し、災害の芽を事前に摘み取ることが必要である。

森林を守る主体、それはやはり地域であろう。そこで森林保全費1兆3千億の内、1兆円は森林面積で按分して、半分の5千億を各都道府県に、もう半分の5千億を各市町村に、それこそ「森林交付金」といった形で交付してはどうか。それを原資に、各都道府県、各市町村が主体となって、それぞれの地域の実情に合わせて森林を、環境を守るのである。

そしてそれは環境の保全に関連するものであれば広く使えるようにし、森林の保全、林業の育成のみでなく、それに連なる農業や畜産業の育成、エコエネルギーの開発、さらには自治体の裁量で、観光や建設業等々にも使えるようにするのである。そうすれば単に環境を守るだけではなく、格差の拡大が叫ばれている地方経済の活性化にもつながることになる。

現在は森林があるからといってそれでお金が回ってくるわけではない。資金がなければ対策も不十分になるわけで、自然を守るには、守る地域に資金が還流する仕組みをつくることが絶対に必要である。森林を基準に按分すれば、現実問題として財源の少ない地域により多くの資金が回ることにもなる。農山村の現状はそのくらい大胆な政策を必要としているのではないだろうか。

次に、森林保全費の残りの3千億であるが、これは国有林の保全に使うべきである。税金をつぎ込むことにより、借金の返済等々のために優良な国有林をむやみに伐採することを防ぐことができる。これから森林の整備に力を入れようというのであるから、国有林はまず守らなくてはならない。

平成17年度の国有林野事業勘定の支出合計は約3千5百億だが、借入金の償還・借換額が約2千億あり、3千億あれば借金を計画的に返しても十分におつりが来る。

そして、この国有林に環境税をつぎ込むことを機に、林野庁の所属を農水省から環境省に移すべきである。林野庁には林業という産業の観点からではなく、森林のお目付け役として、純粋に環境という観点から全国の森林を管理、監督させるようにするのである。

環境税の残りの半分は、石油代替エネルギーの普及・開発という、いわば攻めの政策に使うべきである。

石油代替エネルギーの普及・開発は、石油への依存度をできるだけ少なくしていくためにも不可欠であるが、力を入れるにはそれなりの財源が必要となる。現在、いろいろな技術が出てきていると聞く。財政的にあと一押しすれば、環境ビジネスはかなり活性化するはずで、それは日本経済全体をも底上げし、自動車ユーザーにも利益をもたらすことになる。

さて、本題の道路建設が最後になったが、これは本則分2兆8千億を一般税源化した上で、全て地方の自主財源とし、地方の手に委ねてしまうのが最善である。地方自治体が自らの裁量で自由に、道路の規格・規模等を含めて、改めて道路の建設を検討し直すのである。

道路の補修等が必要であることはその通りである。ならば地方の判断でそれを行えばいい。その地方にとって新しい道路をつくることの優先順位が高いのであればもちろん新しい道路をつくればいいわけで、大切なのは、それらを全て地方に任せる、ということである。

これにより各自治体は真剣になって優先順位を検討するであろうし、道路をつくる場合でもより効率的につくるべくその方法を工夫するであろう。首長はその資質をより問われることになり、また各自治体の議会の責任もより重くなる。それは地方政治の活性化にもつながるはずである。

そして、財源を全て地方に回してしまえば国の分が当然なくなるわけだが、この際、国がつくる道路は最低2年間は凍結した方がいい。一度立ち止まってみるのである。その後、各地方の取り組み状況により、国の関与がやはり必要であれば、改めて国の一般財源を使って国主導の道路建設を検討すればいい。

もし、現在国が行っている事業が地方にとって継続すべきものであれば、主体を国から地方に移し、地方に回った予算やこれまでの国直轄事業への負担分等を使って継続すればいいのである。

安倍内閣に引続き、福田内閣も道州制担当大臣を置いているが、道州制議論においては、道路建設の主体は国ではなく道州である。政府が道州制を推進するのであれば、国土交通省が握っている道路建設についての主導権を都道府県に移し、道路は地方の裁量により建設するという体制づくりから始めるべきである。

今日の地方の疲弊は、三位一体改革で地方交付税や補助金等をカットされる一方、権限や財源が十分に与えられなかったことに大きな要因がある。道路特定財源を全面的に見直して、地方が自由に力を発揮できる体制をつくり、より疲弊している農山村には環境という新しい視点から支援を行うことは、地方再生の第一歩になるはずである。