生活者主権の会生活者通信2003年02月号/07頁..........作成:2003年02月11日/杉原健児

全面拡大表示

カレント1月号から

港区 梶原光惠

 1月号のカレントには、世界が激変していると言
う記事が多く掲載されている。先ず、小久保晴行氏
の<海外ざっくばらん>では、最近行かれたヨーロ
ッパの事情が報告されている。         
 EU統合後、昨年1月にはユーロの統一通貨実施が
行われ、既に「成熟した資本主義社会」であるヨー
ロッパ各国も大きな変化が訪れている。そして20
04年5月にはエストニア・ラトビア・リトアニア
・ポーランド・チェコ・スロバキア・ハンガリー・
スロベニアというこの10年の間に旧ソ連圏から独
立したばかりの国々と、キプロス・マルタの地中海
沿岸の国々がEUに新規加盟する。ヨーロッパ人は、
誰でも自分の意見を持ち、主張し、自分の資産は自
分の意思で管理し、絶対に他人の口は挟ませない。
そうした合理主義で固まった人々(国々)が一気に
大同団結しようというのだから、ことは大変である。
が、なにが人々を駆り立てているのか、というと、
元々は農業の保護政策であったが、今は工業化をど
んどん進めてIT、バイオ、宇宙工学、環境問題など
でアメリカに追い付き追い越せという絶対的な目標
である。                   
 統合後の名称も現EUの他に、USE (ヨーロッパ合
衆国)やUE(連合ヨーロッパ)などが考えられてい
る。さて、現ヨーロッパの元はドイツ・フランスの
祖先であるシャルルマーニュ皇帝が作ったカロリン
グ王朝フランク王国で、これが西ローマ帝国創建の
母体となり「西欧」と呼ばれる原風景となっている。
故に、第2次大戦後現・ドイツとフランスが中心と
なって生まれた現在のEUは、カロリング王朝の再来
ともいうべきであるが、2007年にはルーマニア
とブルガリアが新規加盟する。そして、次にはトル
コが加盟を狙っていると云うのである。     
 キプロスなどは、<ヨーロッパ>の語源ともなっ
たゼウスに愛されシチリア島に連れ去られた王女ヨ
ロッパの国フェニキアに近くオスマントルコにやら
れた方だが、トルコ自体が加盟するとなると、大き
な問題が生ずる。ポーランドやチェコなどは、旧共
産圏で、政治システムが確かに違ってはいたが辛う
じてキリスト教圏なのである。パリ在住のジャーナ
リストも、トルコだけは駄目だと言っている。ヨー
ロッパがヨーロッパではなくなると。それは私も分
かる。長年、十字軍として戦った相手である。また
中世にはオスマントルコはヨーロッパを席巻し、バ
ルセロナやミラノ、フィレンチェ、ウィーンなど各
地に被害の痕が残っている。そういう相手と大同団
結しようと言うのである、文化や価値観がどう折り
合いをつけて巧くやっていけるか、大きな歴史の転
換点に来ている。               
 しかし英国は、欧州とは歴史的に一線を画してい
るようで、村田忠夫氏(国際問題評論家)の記事<
アメリカに向かって走れ>では、昨年脳卒中で倒れ
たサッチャーが英国への最後の助言ともいうべき新
著‘治国策’の中で、EUを失敗必至のユートピア、
インテリの虚栄と叩き、英国はアメリカとこそ経済
的・政治的にもっと緊密になるべきである、と説い
ている。                   
 彼女曰く、ヨーロッパは自分では問題を解決でき
ない国だ、と云うのである。それは第2次大戦時、
ナチスに蹂躙されながらも英国がアメリカの支援を
頼んで立ち上がらなければヨーロッパは解放されな
かった事を指している。1950年代チャーチルも
‘英語国民の歴史’で同じ主張をしている。サッチ
ャーと政党は違っても、イラク戦に対するブレアの
行動がそれを物語っている。余談ではあるが、対イ
ラク戦不参加を公約にし当選したドイツのシュレー
ダーは米独関係がこじれて、ブッシュはシュレーダ
ーの電話に出ず、釈明に訪米した外相のフィッシャ
ーもホワイトハウスには入れて貰えず、国務省だけ
だった。                   
 また村田氏によると、中国は「あっと驚く為五郎」
的スピードで経済をアメリカ体制の中に組み込んで
いるらしい。奇しくもサッチャーの私有化と同時ス
タートで、国営企業の私有化を進めている。一番遅
れたのが日本で、郵貯も簡保も道路公団もこのまま
では永遠に揉め続けるのではないか、と氏は心配し
ている。そして二十世紀の最後に、軍事的にアメリ
カの対抗勢力になることを断念した中国は、今後軍
事的にアメリカに歯向かうことは絶対にない。但し、
経済でアメリカに追い付き追い越そうと考えている
のだ。胡錦涛が指導して作られた中国共産党中央学
校は、行政と経営のプロを育成するビジネススクー
ルである。科目は世界経済、政治、法制度、軍事、
科学技術でサミュエルソンの経済原論は必須。ハー
バード大学ザックス教授のロシア衝撃療法、外国政
治制度、比較政治論、三権分立などの西欧自由民主
主義の概念も学ぶ。学校の出す新聞は首都のインテ
リ必読で、ハーバード大学流ケーススタディ歓迎採
用、有名外人教師多数招聘、共産党の将来方向を探
る研究もあり、手始めにソ連崩壊の研究にメキシコ
とインドネシアの一党独裁、ドイツ社民党の勝因、
そして日本の50年間に亘る自民党一党独裁政権も
研究対象だそうだ。              
 このように、世界は大きく変わろうとしている。
そしてアメリカに向かって追い付き追い越そうとし
ている国は、元気である。日本も負けてはいられな
い。もう一度挑戦者に戻って、走り出さなければ!
日本式経営も悪くはなかったが、行き詰まったら 
他の手を考えねばならない。大企業など社員が上司
に物も言えない風潮がある。そんな会社に未来はな
い。オリックス宮内社長が著書‘宮内義彦 経営論’
で言う、これまでの含み益をグループ経営結果の提
示に変え、株主を代表して取締役が無能社長を首に
出来る企業統制の確立、コア社員と成功報酬型社員
を共存させ人事評価も真実に肉薄させることが出来
れば、社内に大きな風を興すことが可能だ。然しト
ヨタのように上手くいっていると思う会社は改革の
必要はない。                 
 前述のパリのジャーナリストも言っている。「最
近、日本人は異質である、という声をあまり聞かな
くなりましたね。私は1989年以来5回訪日しま
したが、世界が変わった以上に日本も変化していま
す。経済でも文化でも外の世界に対してオープンに
なりました。」、と。             
 我々も、やれば出来るのである。さて始まったば
かりの2003年が、いい意味での波乱を呼ぶ羊年
になる事を願っています。           

生活者主権の会生活者通信2003年02月号/07頁