生活者主権の会生活者通信2001年06月号/06頁(2)..........作成:2001年06月05日/杉原健児

全面拡大表示

公会計が日本を救う (2)

杉並区(参議院選候補)片山みつよ

  企業が複式簿記の会計を使うのは、バランスシー
ト以外に正しいコスト計算をするという目的がある。
コストを正確に把握できないと、製品をいくらで売
れば利益がでるのか分からず、経営に失敗する。こ
の場合、コストと言うのは原材料や労務費ばかりで
ない。工場設備の減価償却費、つまり、10年使える
設備なら、その建設費を10年に割り振った費用も大
きな要素である。                              
  これは単式簿記では捉えられない。従って、公会
計ではこの減価償却費という考え方はこれまで採ら
れていなかった。しかし、公共施設などを利用する
のはそれを建設した時の人たちだけではない。それ
から5 年後、10年後の人たちも利用する。同様に、
いま私たちが使っている公共施設も、何年か前に建
てられたものだ。私たちは、税金を払う見返りに、
前の時代からの遺産をも享受しているのである。減
価償却の考え方を使わなければ、こうした過去の遺
産を含めた行政コストは正しく把握できない。    
  減価償却だけではない。公務員が退職するときに
受け取る退職金や、退職後に受け取る年金などは、
お金が出るのは退職時や退職後だが、その権利(国
の方から見れば支払義務)は、公務員が勤務してい
た間に発生したものである。ある公務員が今年受け
取った給料が500 万円だとしても、彼がこの一年間
働いたことによる退職金の増加分を考えれば、実際
に発生したコストは600 万円かも知れない。これも
現在の現金主義会計では捉えられない。          
  つまり、正確な行政コストを把握しようと思えば、
企業会計の手法を導入する必要が出てくる。では、
正確な行政コストを把握することはなぜ必要なのだ
ろうか。これまで現金主義の会計でやってきたのに、
どうして今これを変える必要があるのだろうか。実
は、公会計を単式簿記から複式簿記へ、現金主義か
ら発生主義へと発展させ、企業会計に近づけつつあ
るのは、1980年代から先進諸外国でも共通の現象と
なっている。その理由はどこにあるのだろうか。  
  一つには、財政規模の巨大化と複雑化で、伝統的
な公会計では対処できなくなってきたことであるが、
もう一つの理由として、先進諸国の経済成長の鈍化
と財政状況の悪化が挙げられると思う。税の増収に
より次々と施策を打ち出せた高度成長期と異なり、
低成長で税収も伸びず、借金の元利返済の比重が大
きくなってくると、行政の選択肢も著しく狭まって
くる。「あれもこれも」の行政から「あれかこれか」
の行政へ転換せざるを得ない。行政は、一部の人た
ちの望む施策を切り捨て、相対的に多数の人たちの
ための施策に集中せざるを得なくなる。最大多数の
ためといっても、切り捨てられる側には死活問題だ
から、行政の選択に当っては合理的な説明責任がよ
り厳しく求められる。そのためには行政評価と行政
コストの一層正確な開示が必要になる。この目的に
は、従来の現金主義会計では対応できず、企業会計
手法が必要になってくるというわけである。      
  財政がどんなに悪化しても、相変わらず無駄な公
共事業が繰り返され、外務省機密費のような無駄使
いが改まらないのも、正確な行政コストにもとづく
行政評価が行われてこなかったからである。正確な
会計と行政評価によって、行政施策が国民や住民の
厳しい監視にさらされれば、税金の無駄な使い方は
自ずと改められ、財政の健全化が図られる。財務大
臣自ら「破綻の危機に瀕している」と認めるわが国
の財政を根本的に建て直すには、この方法しかない。
従って私たちは、単なるバランスシート作成にとど
まることなく、複式簿記、発生主義会計という、企
業会計手法の全面的導入を求めている。          
  公会計と企業会計では目的が違うから、企業会計
の全面導入には賛成できないという議論がある。確
かに目的は違う。企業会計の売上に相当するのは公
会計では税収ということになろうが、売上は顧客が
自らの選択で購入の意思決定を行って初めて発生す
るのに対して、税金は顧客である納税者の意思とは
関係なく、法律で強制されるものである。        
  しかし、いくら売上を上げていても、それに安住
して顧客満足(CS)に配慮しない企業は市場から淘
汰される。行政も顧客(この場合、納税者を含む国
民・住民)の満足が得られて初めて税収=売上とい
う図式が成り立つ。ただし、企業でも同じだが、顧
客満足とは金額で図れる単位ではなく、従って会計
の扱う範疇ではない。会計はあくまでも行政コスト
など金額で表されるものを正確に把握するための道
具に過ぎない。顧客満足度が税金に見合っているか
どうかを判断するのは国民・住民であり、民主主義
社会ではその審判を下すのが「選挙」である。    
                                        (完)

生活者主権の会生活者通信2001年06月号/06頁(2)