生活者主権の会生活者通信1999年12月号/07頁..........作成:1999年12月20日/杉原健児

国家司法を市民司法に変えよう!

杉並区 山崎康彦

 1996年に実施された衆議院少選挙区比例代表選挙の違憲訴訟判決が11月10日に最高裁判所であり、 初めて傍聴に行ってきました。午前10時開廷ですが、傍聴券をもらう為に珍しく早起きし、 朝8時半から通用門前の列に並びましたが、不思議な事に私が先頭でした。これほど重要な判決に対して 列に並んだ傍聴者は最終的に25名しかいなかったわけですが、その理由が後でわかりました。
 一方裁判所側は30名以上の職員を動員して警戒体制を万全に取っており、中世の要塞のような重装備の 建物で傍聴人を通用門に並ばせ、そこから入廷させる事に何の疑問も感じない最高裁判所職員の精神構造 と共に、全く市民に開かれていない今の日本の司法の現実が判決を聞かなくても実感させられた次第です。 大法廷に行く前には、空港に有るような金属探知機の中を通って検査され、又筆記用具以外はクロークに 置くよう指示が出されました。途中エントランスを通るのですが、このエントランスが又正式の野球が 出来るほどの広さと高さがあり、これでもかと言う程の権威造りが見え見えの代物です。
 大法廷では傍聴券に書かれた番号の座席に座り判事14名が入廷するまで40分以上も待たされました。 その間、原告側の住民や弁護士計9名が一方の入り口から入廷し、反対方向の入り口から被告の 選挙管理委員会の代理人が10名入廷します。10時の開廷少し前に私服の職員が出てきて、傍聴者へ 「傍聴規則」の説明をする訳です。要するに「傍聴者は野次や異議を唱える事無く静かに傍聴しなさい、 若しも言う事を聞かない場合はたたき出す」事を事務的に言うわけです。
 10時きっかり、廷吏の「裁判官入廷」の声が響き、厳かに山口裁判長を先頭に裁判官が14名が傍聴席 より2段も3段も高い席に座ります。その間、廷吏より傍聴人は立って迎えするよう指示が出される わけです。裁判官の入廷から着席までの2〜3分のみが、報道陣に許された写真撮影の唯一の時間であり、 時間が来ると私服の職員が、「時間ですので報道陣は速やかに退廷して下さい」と報道陣を追い出すわけ です。全てがセレモニー化され歌舞伎の舞台を見ているような錯覚すら感じられます。
 これからが今回一番驚いた事ですが、左右に一名ずつ廷吏が配置されているのですが、向かって右側の 廷吏が起立し、審理案件の番号のみを読み上げます。読み上げる番号が何に関する訴訟なのかは当事者 以外誰も分からない訳です。廷吏が読み上げたあと、裁判長がおもむろに、「判決を申し渡します」と 言って、今回2件の訴訟に関して「上告を却下する」とだけ2度言い、「これで閉廷します」 で終わりです。判決理由の説明は一切無し。開廷から5分で閉廷してしまいました。隣にいた弁護士さん に「判決理由の説明はないのですか?」と思わず聞きましたが、「長くなるので判決文を読めと 言う事です」との答え。
 その判決文も一体どこで入手できるのかも一切情報は流されませんでした。結局の所、 帰ってきてその日の夕刊をみて初めて判決全文と内容を知ったわけです。最低4〜5時間の時間と 費用と仕事の都合をつけてきた我々一般傍聴人の知る権利は、完全に踏みにじられたわけです。
 このような状況ですので、わざわざ傍聴に来る人が少なくなるのは当然です。新聞やテレビを 見ただけでは、あたかも判決文の詳細を裁判長が読み上げているかのような錯覚に陥りますが、 実際は「却下します」と一言言っただけ閉廷です。判決文を知りたい人は、勝手に判決文を入手して 自分で読めと言うのが最高裁判所が実際に行っている事実なのです。
 今回の訴訟の要点は次ぎの3点でした。1)衆議院少選挙区比例代表重複立候補制は違憲である。 2)区割り規定による一票の格差 2.3倍は違憲である。3)政党所属候補に有利で無所属候補は不利な 選挙運動規定は違憲である。
 1)に対しては、14名全員が合憲意見、2)と3)に関しては9 名が合憲、5 名が違憲と分かれました。 小選挙区で落選した同じ候補者を比例選挙で政党が推薦すると当選してしまう比例代表重複立候補制は、 誰が見てもおかしいと思います。又、一票の格差が2.3 倍もあるのは、最初から全ての選挙区に 1名のゲタを履かせ、過疎地を優遇する現在の区割り規定が原因です。又、政党所属候補にあらゆる 便宜を保証し、無所属候補には政見放送もさせない今の選挙制度は憲法に規定された「法の元での平等」 に反するのは自明です。
 現在の日本の司法は、政治や行政が既成事実化した法律や制度や決定に対し、 司法としてゼロから判断する立場を放棄し、政治と行政の追認機関に成り下がっている事がはっきり 分かります。そうであるがゆえに、国民や市民の前に全てを公開して理解を求める事もを放棄し、 出来る限り密室で処理し、異議申立てするものに対しては門前払いする事を方針としているわけです。 この「国家司法」とも言うべき現在の日本司法の反動的な体制から市民に顔を向けた「市民司法」への 転換を早急に成し遂げなければならないと思います。
 最後に合憲判決を出した9名の最高裁判事の名前を記しますので、 次ぎの国民審査では×を付けましょう。( ) 内は出身職業です。
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 (1)山口    繁(裁判官) (6)北川  弘治(裁判官)
 (2)小野  幹雄(裁判官) (7)井嶋  一友(検察官)
 (3)千種  秀雄(裁判官) (8)亀山  継夫(検察官)
 (4)藤井  正雄(裁判官) (9)奥田  唱道(学  者)
 (5)金谷  利広(裁判官)

生活者主権の会生活者通信1999年12月号/07頁