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━━━生活者通信メルマガ版━━━━平成19年5月1日  Vol.54━

道徳教育、是か非か?

                      生活者主権の会  松井 孝司

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 政府の教育再生会議第1分科会は、「道徳の時間」を国語、算数
などと同格の正式教科とする方針を打ち出した。一方、文部科学相
の諮問機関・中央教育審議会の山崎正和会長は、倫理教育や道徳教
育について「学校制度の中でやるのは無理がある。道徳教育は、い
らない」と否定的な見解を示している。

 「道徳」は老子の「道徳経」に基づく言葉で、善悪、正邪を判断
し、正義を実行するための規範であり、法律とは異なり、宗教のよ
うに個々人の内面的原理として働くもので、人間相互の関係を規定
するものとされている。
 宗教のように個々人の内面的原理として働く道徳ならば、山崎会
長の言う通りだろう。

 「道」を究め、「徳」を積むことは君子の義務であり、庶民に求
められる義務ではなかった。天下を治めるため、天命を授かるため
に必要な権力者の義務であった。「道」に無知で、「徳」の無い人
間が権力を握ると天下は乱れ、社会は荒廃するからである。

 現代社会は主権在民となり、現代の権力者は一般国民である。し
たがって、一般国民も道徳とは無縁ではいられなくなったのだ。
 社会の荒廃はまさに一般国民の道徳の欠如を示すものである。権
力者が「道理」に無知で、「徳」を失いつつあるのだ。

 道徳教育を実践する場合、問題となるのは価値観の多様化である。
正義の内容については、儒教、仏教、キリスト教、イスラム教だけ
ではなく、無宗教を自認する無数の考え方が、世界のグローバル化
の進行とともに押し寄せ、価値観に優劣をつけることを難しくして
いる。

 道徳は宗教の相違を超え、世界のグローバル化に応えられる普遍
性をもつものでなければならない。公教育の道徳に求められるもの
は個人、国家を超える普遍性である。
 公教育が担う道徳の内容は、その普遍性を具体化するものでなく
てはならないのだ。
 グローバル化する社会に普遍的な秩序が求められるからこそ公教
育に道徳教育が必要とされるのである。

 そんな普遍性のある「道徳」は存在するのだろうか?

 参考になるのが、フランスの公教育における政教分離の歴史であ
る。
 フランスの多くの小中学校には「自由、平等、博愛」の標語が掲
げられているという。

 1848年の憲法において、この標語は共和国の原理と定義され
たが、第2帝政期には見向きもされず、第3共和制になってやっと
定着した。教会が神の存在なくして道徳は成り立たないと主張する
ことに対して、神とは無関係に普遍的な道徳が存在することを認め
させるにはジュール・フェリーの思想的貢献を必要とした。

 1880年7月14日の革命記念日に、この標語は公共建造物に
掲げられるようになり、第3共和制になって子供に教育すべき「普
遍的な道徳」を確立したのである。

 1883年11月17日ジュール・フェリーは公教育大臣の名に
おいて「小学校教師への書簡」を発表し、「個人的で自由、多様で
あるべき信仰の領域と、あらゆる人に共通かつ不可欠であるべき知
識の領域を分ける」ことを主張し、公教育を権利と義務の概念によ
り確立し、権利と義務の内容は何人も知らずにいることが許されな
いものとされた。

 宗教教育は家庭が、「権利と義務」に関わる教育は公教育が担う
ことになったのである。
 宗教に依存する道徳は個人の救済しか考えないが、公教育におけ
る道徳は実証できる真理から生まれ、全人類を対象とする普遍性を
もたせることが求められるのである。

 殺人、窃盗、虚言、強姦などの行為が「悪」とされるのは宗教の
如何を問わず、人種、国籍の相違を超えて普遍性をもつ。
 宗教や価値観に普遍性はなくても、道徳教育には普遍性を求める
ことができるのだ。実証的研究により、道徳の規範をつくる普遍的
な原理の存在を明らかにすることも不可能ではないだろう。

「著者・松井孝司氏関連のHP」
「市民が創る日本再生のシナリオ」
http://www2u.biglobe.ne.jp/~shimin/saisei/
「21世紀のライフスタイルを考える会」
http://www.ls21.jp/
http://www.seikatsusha.org/ne/ma/

生活者通信メルマガ版 (マガジンID:0000146184)
ー「創刊号」 2005年01月01日発行/2005年05月01日現在読者数:1342名ー

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