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━━━生活者通信メルマガ版━━━ 令和1年11月1日 Vol.149 ━

資本主義は持続可能か?

                  生活者主権の会 松井 孝司

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民主制の欠陥が顕著に

 21世紀に入って世界の殆どすべての国で衆愚政治、ポピュリズ
ムに陥りやすい民主制の欠陥が顕著になりつつある。アラブ諸国の
民主化が国家混迷の原因になり、民主主義発祥の地であったギリシ
アでは財政破綻が危惧され、民主主義の模範生であったイギリスが
EU(欧州連合)離脱でヨーロッパ経済に混迷をもたらし、世界の自
由な交易を推進してきた米国はトランプ政権になって反グローバル
主義に転じ米中の対立で世界経済を大きく低迷させる可能性が出て
きた。文政権になって反日世論を煽る韓国の民主主義も日韓の相互
不信を深める原因になっている。


 歴史を振り返れば個人の自由な行動を尊重する民主主義は無知な
大衆による暴政の危険が付きまとう不安定な政体と考えられ正義で
はなかった。

 19世紀から20世紀前半は戦争の世紀であり、戦争に勝利する
ために言論を統制し国民を戦争に駆り立てる国家主権を疑問視する
人はなく、日本も明治初期に四民平等の社会を実現したが明治6年
の政変で政府は分裂し、天皇主権のもとで官僚が主導する有司専制
の国家になった。国民に自由な行動を許していては戦争に勝てない
からである。

 民主主義が世界の普遍的な正義になったのは第二次世界大戦が終
了した後であり、20世紀も後半になると米ソの対立はあっても世
界規模の戦争は無くなり、冷戦の時代がつづいたため国民主権の民
主制に異議を唱える人は皆無になった。

 20世紀後半の社会正義は国民主権にもとづく「自由」と「平等」
を理念とする民主共和制であり、資本主義、共産主義の相異を問わ
ず、新しく誕生した国家の殆どが「共和国」を名乗っている。


 すべての国民に平等な選挙権を与える普通選挙が実現したのは
1789年のフランス革命につづく1792年の共和制の発足であ
る。哲学者ジャン・ジャック・ルソーの影響を受けたロベスピエー
ルの理念と情熱は真摯なものであったが、権力を手にしたロベスピ
エールは民衆の喝采を浴びながら政敵を次々にギロチン台に送った。
無知で偏見を持つ国民は暴徒に化け易く、人民に平等な権利を与え
ることが社会の混迷を深める原因になった事実を忘れることはでき
ない。


 中華人民共和国が「共和国」を名乗っていても普通選挙は実施せ
ず、言論統制をするのは文化大革命で毛沢東が「造反有理」を勧め
た紅衛兵が暴徒化した経験からデモ暴動を偶発し易い自国民の欠陥
を知悉しているからだろう。

 中国は1949年の建国以来試行錯誤を繰り返しながら70年間
に国民の可処分所得を567倍に増やし驚異的な経済成長を実現し
ている。中国の経済成長は中央政府の大きな行政権を地方政府に委
譲し、地方政府が市場経済の競争原理にもとづき効率よく旧弊を破
壊しイノベーションを実現した結果であり、インフラ投資により政
府が所有する公有地の利用価値を飛躍的に向上させた成果である。

 土地が公有のため日本の空港建設に反対する一坪地主のような国
民は存在せず、上海の浦東空港は約130億元の低コストで4年の
短期間で完成させた。上海の人口稠密のスラム街は再開発が断行さ
れ30〜40階建ての近代的ビル街に変身させる一方で上海老街の
ような街区保存も効率よく実現している。


戦後日本の民主主義

 民主主義の成否は主権者となる国民の知的レベルに依存する。民
主制の欠陥は選挙制度にもとづくもので無知で偏見を持つ国民にも
迎合しなければ当選できないため政治家も知力が低下または偏向し、
その実態は国会審議に現れている。

 無知、偏見にもとづく衆愚政治の典型は日本の原子力政策に見る
ことができる。福島第一原発の事故処理は事故後8年半を経過した
今も問題解決に向かわず、政治家に加え原子力の専門家も「放射能」
恐怖症に罹り愚策をつづけている。

 日本で大正時代に誕生した「放射能」という言葉は元来ラジウム
鉱泉の効能を計測するための用語でラドンの含量を示すマッヘとい
う単位をもつ。放射能測定の結果、日本国内の各地に放射能泉が存
在することが明らかになり、リウマチなどの疾患治療に有効な薬が
無かった時代にラドンを含む放射能泉での温浴療法は繁用されてい
た。

 「放射能」が原爆や原発事故の恐怖を示す言葉として用いられる
ようになった契機は原子力船「むつ」の「中性子」漏れ事故である。
中性子の遮蔽は容易であり、設計ミスを修正すれば済む事故で大騒
ぎをするような事態ではなかったのに核エネルギーに無知で偏見を
もつ日本の一部のメディアが得体の知れない「放射能」漏れの大事
故に仕立て上げたため1200億円の資金を投入した原子力船の開
発プロジェクトは中止され、税金の無駄遣いで終わってしまった。
高速増殖炉「もんじゅ」の事故では約1兆円の税金の無駄遣いをし
て廃炉が決まった。福島第二原発では震災直後の停電による大事故
を阻止したのに再稼働をすることなく廃炉が決まり日本経済に巨額
の損失をもたらしている。愚策が繰り返されるのは正体不明の放射
能という言葉への恐怖が優先し、正しい知識にもとづく事故の反省
がなく問題解決を先送りしているからである。

 原子力規制基準の審査に合格してもメディアが煽る風評被害を真
に受けて国民は原発の再稼働を許さず、化石燃料の消費を増やし環
境破壊を促進しながら日本経済をコスト高に陥れるのは賢明な人が
することではない。

 韓国の文政権は福島原発のトリチウム汚染水にイチャモンをつけ
ているが、韓国の月城原子力発電所の重水炉(CANDU炉)は累積で
6000テラベクレルを超えるトリチウムを放出してきた。トリチ
ウムが放出するβ放射線の正体は電子であり、自然界に充満する電
子のリスクを騒ぎ立てるのは自らの無知を告白するものである。


 自由民主党を筆頭に○○民主党を名乗る政党が多数を占める1強
多弱の政党政治で日本は旧くなった効率の悪い制度を温存し改革を
先送りしているが、日本の資本主義経済は第二次世界大戦後の一時
期高度成長を実現し、世界第二位の経済大国になった実績がある。
日本は経済の高度成長を実現した成功と失敗の歴史に学ばなければ
ならない。


 第二次世界大戦で日本の主要都市は廃墟となり、廃墟の中から立
ちあがった日本経済は米国から与えられた民主制のもとで高度成長
を実現したが、成功したのは米国の最新の科学技術を導入し、官僚
が主導する戦争で培った効率のよい1940年体制の経済システム
を温存し産業社会の破壊的イノベーションを実現できたからである。

 しかし、1980年代半ばから日本の土地価格のすさまじい上昇
を許したことは失敗であった。土地価格は収益還元価格に準ずるの
が正常でGDP(国内総生産)の伸びに等しくすべきものを日本の土
地価格は土地神話と土地を担保にする銀行の信用創造によりGDPの
5.2倍に急騰した。一物四価の不合理な土地税制は放置され、東
京山手線内の土地価格は広大な米国の土地価格に匹敵し、千代田区
の土地価格はカナダ全土を上回った。

 1985年のプラザ合意後の超円高で一人当たりドル換算ベース
の国民所得は増えても円ベースの可処分所得を増やさなかったので
GDPの増大に貢献せず、超円高への対策を誤ったため日本経済は理
不尽な信用膨張でバブル化し、バブルがあまりにも大きかったため
バブルが崩壊したあと、多くの銀行が不良債権を抱えて倒産または
整理統合され長期に亙る資産デフレに苦しむことになった。

 官僚が主導した戦後日本の民主政治は政府の肥大化とともに膨大
な資金の無駄遣いを繰り返すようになり経済の低迷で政府の累積債
務は返済の見込みが立たず、小さくて賢い効率の良かった政府が効
率の悪い愚かな政府に変わってしまったのだ。


金融資本主義の変質

 社会学者マックス・ウエーバーは禁欲的なプロテスタンティズム
の倫理が資本主義を誕生させたと説いたが、近代資本主義の「精神」
としてウエーバーが言及しているのは米国の建国の父となったプロ
テスタント、ベンジャミン・フランクリンの処世訓である。

 ベンジャミン・フランクリンは裕福ではなかったが、「時は金な
り」の精神で働くことにより印刷業で成功し、米国資本主義の成功
モデルになった。雷が電気現象であることを解明した科学者でもあ
り合理的思考力の持主であった。プロテスタントの信者でも日曜日
の礼拝に教会に行くことは殆ど無く、啓蒙思想の理念、自由、平等、
友愛を説くフリーメイソンの会合には参加したという。
 18世紀後半のヨーロッパは啓蒙主義の時代といわれ、啓蒙思想
は1776年からフランスで米国の使節を務めたベンジャミン・フ
ランクリンを通じて北米にも広まった。

 米国で世界最初の民主国家を成立させたのは啓蒙思想の理念であ
り、ヨーロッパ諸国は相次いで米国の独立を承認した。しかし、米
国の独立に触発されて起こったフランス革命は成功せず、19世紀
のヨーロッパはナポレオン戦争で幕を開ける。


 ヨーロッパの資本主義は金本位制のもとで貨幣が高い金利を稼ぐ
ようになって成立したとする説もある。マックス・ウエーバーも資
本収益税の対象となる資本額はカトリック教徒に比しプロテスタン
トが多く、ユダヤ人が断然先頭に立っていることを指摘している。
カトリックやイスラム社会は金利を徴収することを許さなかったが
プロテスタントとユダヤ人社会では金利をとることを否定しなかっ
たので、人々は金利で殖える借金を返済するために寝食を惜しんで
働くようになり資本の蓄積が可能になった。

 ケンイズの一般貨幣理論でも利子と雇用の関係を重視しているよ
うに収益となる金利が世界経済の浮沈に大きく影響してきたことは
事実である。

 しかし、1971年8月15日に米国のニクソン大統領がドルと
金との兌換停止を発表して以来、貨幣経済は大きく変貌し米国がリ
ードしてきた金利にもとづく世界の経済秩序の維持が危ぶまれる事
態になった。

 金の蓄えが無くても信用さえあれば貨幣を際限なく発行できるよ
うになり、リーマン・ショックによる信用収縮に対応するため世界
の主要国で異次元の金融緩和が実施され金利低下が著しく、通貨高
を阻止するためにマイナス金利まで登場している。スイス国立銀行
やECB(欧州中央銀行)がマイナス金利の深堀を試みるのは超円高
を許した日本の失敗を繰り返さないためである。金融市場では資本
家ではなく政府、中央銀行による信用創造の役割が重要になり、金
利に依存する資本主義は変質し持続が難しいことが明らかになった。


 さまざまの景気刺激策が実施され、金利をゼロにしても経済が低
迷するのは政府の肥大化で付加価値を生まない資金循環が多くなり、
無用な既得権が生まれ社会が高コスト体質になって利益を出すこと
が難しくなったからである。

 社会の高コスト体質にはICT(情報通信技術)の活用が解決策に
なる。貨幣は電子媒体上のバーチャルな存在になり世界の主要国で
貨幣のデジタル化が進行しつつある。民間企業の電子マネーの発行
が先行しているが、政府や中央銀行が自国通貨をデジタル化する動
きも出てきた。預金口座を無料で維持することは難しくなっており、
中央銀行に個人が直接決済口座をもつことができれば民間銀行の預
金口座は必要がなくなるかもしれない。

 政府は個人の年金や健康保険の診療記録、金融資産や取引データ
をすべて把握することが可能になり、個人情報の利用規制を見直し
厳格な公的管理のもとで活用することができれば米国のGAFA
(GoogleなどのIT企業)が手にするサービス・イノベーションに
よる成果を政府、自治体など公的機関に移転させ小さな政府で生産
性を飛躍的に向上させることも不可能ではない。脱税、節税が難し
くなり消費税を筆頭に複雑で不合理な納税制度は大幅に簡素化し合
理化できるだろう。


 資本主義経済は政府による財政出動の役割が大きくなるが、日本
の各地で頻発する自然災害は地震や豪雨、大型台風の破壊力に巨額
の資金を投入したダムや堤防など防災目的のインフラ投資が無力で
あることを教えてくれた。金利はゼロでも費用対効果が悪い災害対
策はほどほどにして、崖下やハザードマップが示す危険地域に居住
する住民は退去させ人口減がすすむ地方都市を安全で低コスト、省
エネルギーのコンパクト・スマートシティーに創り変えるために大
規模な財政出動をすることが賢明な策と思う。

 少子高齢化で企業が大廃業時代を迎えていることも破壊的イノベ
ーションを断行するチャンスである。


「部分」と「全体」の調和を!

「国民」と「国家」、「個人」と「集団」の関係は「部分」と「全
体」の関係になる。部分が全体を犠牲して自分勝手に行動すること
は許されることではない。人体に例えれば全体を無視して増殖する
細胞はがん細胞のようなもので制御されない細胞の自己増殖は全体
の死をもたらす。全体を無視して「国民」の権利を際限なく増大さ
せればいつの日か「国家」を崩壊させることになるだろう。

 国家も世界経済全体から見たら部分である。国家が自己中心的に
なり、自国の利益のためにグローバル化を否定し戦争をはじめたら
世界経済崩壊の原因になる。


 部分と全体の対立を克服するには生物の構造に学ぶのが解決策に
なる。生物の全体は細胞の集合体であるが奇妙なことに一つの細胞
に生物の全設計図を含む遺伝子が組み込まれており、個々の細胞は
全体の動きに常に順応する。全体は部分に依存し、部分は全体に依
存する相互依存の相補的関係で生物は動的恒常性を維持し、遺伝子
に損傷を受けた細胞はアポトーシスにより自滅する仕組みになって
いる。

 環境の変化に適応するために生物は多様な遺伝子を準備しておか
なければならない。

 生物が動物と植物に分化し、雌雄に分化して交配を重ねるのは集
団を維持するために遺伝子の多様性を確保するためである。分化し
た集団の間にも相補的関係が成立しており、全体と部分の間に相補
的関係を構築できない集団は淘汰され消滅する。

 生物の相補的構造と制御の仕組みは進化の過程で試行錯誤を繰り
返しながら獲得したもので持続可能な社会のシステムを構築するた
めに重要なヒントを与えてくれる。


 社会を持続可能なシステムにするために求められることは国家と
国民、集団と個人、全体と部分の調和であり、対立する両者を相補
的関係で結び多様性を許容する社会である。全体のために部分が抑
圧されることが無く、部分のために全体が犠牲になることもないシ
ステムの構築である。アダム・スミスが「国富論」で「見えざる手」
を、渋沢栄一が「論語」を引用し「義利合一」を説くのは全体と部
分、公益と私益を調和させる個人の意図を超えた倫理、道徳の存在
を直観していたからだろう。


 新しいシステムの実現には社会の仕組みについて国民が無知であ
ることは許されないし、価値観を改めて宗教やイデオロギーにもと
づく偏見は排除しなければならない。

 国民の知る権利を確立して最新の科学技術研究の成果にすべての
人がアクセスできるシステムを構築し、同時に蓄積する知識・デー
タの真偽を検証する必要がある。


 資本主義を支えるリソースは金融資産から知識に変わり、知識を
活用できる人財が最も重要な資産になる。人とモノに付随する知識
・データがイノベーションによる付加価値創造の源泉になるが個人
情報も含めた知識・データの活用は公共の福祉に適合するように規
制しなければならない。知識は両刃の剣であり、悪用することもで
きるからである。


 人間の知力を決める脳の形成は6歳頃までに終了するので価値観
と倫理、道徳を体得する幼児教育を見直し、特定の価値観に捉われ
る画一的な人間ではなく多様な人間を育成することも重要になる。
多様な人々の求める価値観は多様化し自律分権型でヒェラルキーの
ない小規模組織が競争有利になり、ヒェラルキーに依存する巨大組
織は不利になり企業の生産様式、サービス内容にも変革を迫ること
になるだろう。


 人間社会の大きな紛争の原因は「土地」の所有と「富」の分配を
めぐる争いであった。価値の媒体となる土地と貨幣の所有権など経
済活動に係る財産権の内容変更は紛争を回避し、貧富の格差を是正
して資本主義を持続可能なシステムにするために重要な選択肢にな
る。

 中国の驚異的な経済発展は個人の「自由」より全体の「平等」を
重視し、土地を公有化し貨幣を完全に政府の管理下に置いた国家資
本主義の成果である。

 中国の弱点は一党独裁制にあり、政府の失政を補完できる政党が
存在しないため政府が愚かな人間の集団になれば国家の崩壊が始ま
り、物づくり大国になった中国が崩壊したら世界経済は大混乱に陥
るだろう。中国の国家資本主義に衆愚政治は許されないのだ。


 21世紀の資本主義を金利ゼロでも利益を生むように効率化し、
社会環境の変化に適応し進化させるために障害となるのは変化に適
応できない国民の存在である。

 資本主義を持続可能にするためには生涯学習による国民の知的レ
ベルの飛躍的な向上が求められ、国民に正しい知識を普及する公共
空間(=NHKなど広告に依存しない非営利メディア)と脳研究の
最新の成果を踏まえた科学的根拠にもとづく教育システムの抜本的
な改革が不可欠と思われる。


「著者・松井孝司氏関連のHP」
「市民が創る日本再生のシナリオ」
http://www2u.biglobe.ne.jp/~shimin/saisei/
「21世紀のライフスタイルを考える会」
http://www.jstyle21.net/
http://www.seikatsusha.org/ne/ma/


生活者通信メルマガ版
(マガジンID:0000146184)

−「創刊号」 2005年01月01日発行−
≪2005年05月01日現在読者数:1342名≫


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