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━━━生活者通信メルマガ版━━━━平成25年8月1日 Vol.114━

TPP交渉参加について

                      生活者主権の会  橋  聡

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1.21世紀のアジア経済共同体

 かつて大前研一氏が提唱していた、統一通貨「アセア」を導入し
たASEAN中心のアジア経済共同体が最終目的である。通貨は別
として、北米、EUに対抗するアジア共同経済領域の構築に向けて、
TPPでの経済交渉は避けては通れない道である。

 東日本大震災やタイ洪水であらわになったのは、機械や電機、自
動車などの製造業でいかに国際水平分業が進展していたということ
である。東北やタイでの電子部品、自動車部品、の生産が途絶えた
途端、欧米やアジアなど世界中の完成品生産に影響が出た。今や一
国で部品から完成品まで垂直生産されるケースは少なく、さまざま
な国が生産工程別に分業し、中問部品を輸出入し合う生産ネットワ
ークが構築されている。

 こうした新しい国際分業では欧州や中南米より日本を含む東アジ
アが突出している。そしてこの分業を支援するためには関税引き下
げだけでなく、各国での投資の自由化、ジャスト・イン・タイムに
向けた貿易手続きの円滑化、知的財産保護などが重要な要素になっ
てくる。

 日本が並行して交渉を進めているRCEP(東アジア地域包括的
経済連携)や日中韓FTAを材料にTPPで戦略的な交渉を進める
ことも可能である。特にRCEPはASEAN(東南アジア諸国連
合)と中韓インドなどが参加しており、国際生産ネットワークへの
対応では実はTPPより効果が大きく、日本にはTPPのほかにも
選択肢があるということである。

 また、日本は経済的にも、中国、米国とは切っても切れない関係
で有り、米国との通商において、TPPは必要不可欠となってしま
った。中国とは日中韓FTAで経済交渉を続けており、TPPでの
合意事項が中国に対しても交渉材料となり有利である。中国は今に
なってTPP参加の用意があるような揺さぶりを掛けて来ているが、
WTOの時のような反対で会議を壊す戦法はとれない。入口論とし
て、共産党主導の国営企業の存在がハードルとなり、参加は困難で
ある。


2.TPP交渉参加のメリットとデメリット

 日本にとってのメリットは第一に、東アジアを主力とする日本企
業が国際分業でさらなる進化を遂げ、グローバルな競争力を強化で
きることである。これは日本企業の国内雇用のTPP日本のシナリ
オ安定につながる。もう一つは、TPPに参加すれば企業の立地誘
致競争で有利になり、国際生産ネットワークにしっかりと組み込ま
れることである。逆にいえば、TPP不参加なら日本は国際分業か
ら取り残され、空洞化が加速しかねない。

 但し、製造業の生産効率(物的労働生産性)は企業の生産技術に
よって決まる。そのため、どの国でも最新工場を建設できるなら、
結局はコスト競争力のため人件費の安い国での生産が選ばれる。日
本が相対的に高賃金国であるかぎり、TPPに参加してもこの海外
生産シフトの流れまでは止められない。いえるのはTPPには空洞
化の進行を遅らせる効果はあるということである。

 デメリットとしては、第1に農業である。聖域とされる5品目
(コメ、麦、牛肉・豚肉、乳製品、砂糖)を見ると、農家の親模や
経営効率化の状況、輸入比率や外国産との価格差などの競争環境は
品目ごとに大きく異なる。大規模化が大いに遅れている。また、コ
スト競争力に差がある一因はトウモロコシなどの飼料代で、日本は
飼料を輸入に頼っているため、特に最近の円安進行が農家の経営を
直撃している。

 畜産と対照的なのが、耕地面積の制約を受けるコメや麦、砂糖な
どの土地利用型農業である。動物相手に24時間365日休む暇も
ない畜産農家と異なり、コメ生産の担い手には兼業農家が目立つ。
ただ、畜産にせよ、土地利用型農業にせよ、いずれの品目も、担い
手となる農家が減少し、高齢化が続いている点で共通する。

 一方で、コメの消費量は863万トン(2011年度)に落ち込み、
ピークをつけた1963年の6割強にすぎない。1世帯当たりの食料支
出金額は11年にパンがコメを上回り、めん類も含めれば日本人の主
食はもはやコメではなく小麦になっている。消費者のコメ離れの一
因は、価格の高騰である。60kg当たりの平均価格は、10年度産米
1万2711円、11年度産米1万5215円に対し、12年度産米は1万6567円
と高値で推移している。

 こうした状況から、日本も価格操作や関税を縮小・撤廃したうえ
で農家に所得補償を行うWTO対応の補助金政策に改めるべきとい
う議論が根強い。高価格維持による「消費者負担」から、補助金に
よる「納税者負担」に移行すべきというわけである。

 しかし仮に日本で関税を撤廃すれば、新たに必要となる所得補償
は兆円単位のべらぼうな金額になる公算が大きい。競争力の弱い作
物であればあるほど、生産費が国際市場価格を大きく上回り、補助
金は膨張するからだ。となれば、補助金の財源を賄うため消費税を
数%上げるという話になるだろう。

 民主党政権が10年から導入したコメの個別所得補償制度だ。同制
度では10アール当たり1.5万円、毎年1500億〜2000億円がつぎ込ま
れ、生産調整に協力した農家には耕作規模を問わず、全国一律で面
積に応じて均等におカネをバラまいてきた。その結果、兼業農家中
心の零細農家が温存された。専業農家だけにしなかったことが間違
いであった。

 農業の行く末を占う手掛かりの一つが、兼業農家が引き続きコメ
を作り続けるのかどうか。現在、農業就業者の平均年齢は65.8歳。
あと5年−10年もすれば、農業そのものから引退してしまう。「片
手間で生産している兼業農家に退出してもらう必要がある」(農業
に参入した大手企業)という声は根強いが、笛吹けども踊らず。農
地の集約、大規模化はなかなか進まない。

 しかし、クールジャパン、未来世紀ジパング等でTV放映されて
いるように、健康ブームに乗って、日本の食文化が世界で注目され
ている、緑茶の輸出もこの10年間で10倍に躍進している。明治時
代では生糸に並ぶ輸出産業であった歴史もある。日本食に合う日本
の野菜も現地生産を含めて海外の日本食レストランと契約すること
で輸出産業として農業が大成する可能性を秘めている。株式会社化
した農業経営企業に対する規制の緩和政策が急務である。

 また、遺伝子組み換え食品の非表示問題があるが、日本の消費者
団体が1つに纏りNGOとして消費者は遺伝子組み換え食品を非表
示にする輸入業者・販売業者からは購入しないと公表するだけで解
決する。消費者の購買思考は条約でも縛ることはできない。日本政
府が賠償責任を問われることもない。但し、消費者団体が日本で1
つに纏まらなければ意味を持たない。こうゆう時こそ、現野党女性
議員が超党派で協力し、全国の消費者団体をNGOとしての組織化
を支援すべきである。


3.非効率産業団体の敗者の論理

 TPP反対論は最初から国民の賛意を得られそうにない「敗者の
論理」に立脚していた。敗者の論理とは何か。農業も医療も、業界
を競争にさらせば、消費者に弊害が及ぶという競争悪玉論である。
競争を拒絶することで、非効率を温存しようとしたのだ。「農業が
なくなってもよいのですか」という環境人質論や、「アメリカの陰
謀なのですよ」というささやきは、それこそ業界自体に非効率を打
開する対案がないことを自ら告白したものである。

 かつて花形産業であった、パソコン、テレビなどは、コモディテ
ィ化していくと自前主義をやめて外部に生産委託するほうが有利に
なる。ところが、わが国のメーカーは経営資源を組織内に抱え込み、
外部の資源をいかにうまく活用するかというオープン化へ発想を転
換できなかった。

 そうこうするうちに、AV機器、ゲーム機、パソコンというハー
ドの市場自体がスマホに食われてしまった。「いい品質の製品を作
れば売れるはず」という神話に閉じこもり、売れる仕組みを作る闘
いでも敗北したのである。

 経営者の力量は、他社や他業界のアイデア・技術の真贋を見抜き、
自社に取り込むことができるかどうかで決まる。何を捨て、何を選
ぶのか、を判断しなければならない。

 農業でも製造業でも、「何を捨て、何を選ぶのか」周到な検討が
TPPを生かせる。



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(マガジンID:0000146184)

−「創刊号」 2005年01月01日発行−
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